婚約者も両親も私を傷つける……もう耐えられません! 去らせていただきます!
「アンタとは共にはやっていけん! よって、婚約は破棄とする!」
その日、婚約者アルハードから告げられたのは、関係を終わらせる言葉だった。
まるで袈裟斬りのように。
私は切り捨てられる。
彼は私を切り落とすことに躊躇いを抱いていないようであった。
彼にとって私は大切な人ではなかった……ああ、どこまでも悲しい。
いや、大切な人になんてなれなくても良かった。
少しでも気に入ってもらえたらと思っていた。
愛なんて要らない、だからせめて、気遣いくらいは欲しかった。
でも願いは叶わず。
私とアルハードの関係は終わった。
婚約破棄された私は実家へ帰り両親にそのことを伝える。すると両親は心ない言葉をかけた。父は渋柿を食んだような顔で「恥さらし! よくもそんなことを」と言い、母は馬鹿にし見下すような嫌みな笑みを浮かべて「婚約者さんに捨てられるなんて恥ずかしいわねぇ、恥を絵に描いたような娘だわぁ」と言った。二人は傷を広げることしかしなかった。
だから私は家を出た。
夜、勝手に飛び出したのだ。
もう親の顔を見たくなくて。
そうして飛び出した私は「どうしようもないから死のう」と思っていた。が、その選択は、ある出会いによって潰された。
というのも、黒い神を名乗る青年ルレンと出会ったのだ。
彼は私を連れ去った。
生まれ育った世界とは異なる世界へと。
◆
「そこの薬草! 取ってもらえる?」
「あ、はい~」
「ありがと! じゃ、後はケーキでも食べててね!」
「……調合を見ていても?」
「いいよ! あ、でも、ちょっと照れるかも」
以降、私があの世界へ戻ることはなかった。
そして今もルレンと共に生きている。
「すみません、見てしまって」
「いいよいいよ~」
「何かすみません、でも……私、こうして眺めているのが好きなんです。……って、あ! 仕事はいつでもきちんと手伝いますから! それは嫌じゃないですから!」
ちなみに、アルハードと私の両親はというと。
あの後、私に対する心ない行動を知ったルレンによって、罰をくだされた。
アルハードはルレンの術によって生命を少しづつ吸い取られることとなり、徐々に体調を悪くしている。数年が経った今も辛うじて生きているようではあるが、毎日苦しみ、辛い思いをしながら生きているようだ。
そして、私の両親も、痛い目に遭った。
父は、アルハードと同じく、生命を吸い取られる術をかけられた。だがアルハードとは違ってみるみる弱り。そのまま衰弱していって、一年半もかからず亡くなってしまったそうだ。
母は、何をしても失敗して災難に見舞われる術をかけられ、ことあるごとに残念なことになったことで心を病んでしまったそうだ。そんなある日、寝惚けて夜中に階段を上り下りしていたところ足を滑らせて二階から一階まで転落し、前から置いていた大きな象の置物に頭から突っ込んで。頭部を強く売ってしまったために数日後死亡したそうだ。
「ちょっといい?」
「何ですか」
「あそこの右から三番目の瓶、持ってきてくれないかな」
「取ってきます!」
私はこれからもルレンと生きてゆく。
彼の仕事を手伝いながら。
相棒のように生きてゆく。
もはや迷いはしない。
この道こそが、私の道だから。
◆終わり◆




