魔法の才があるために多くの損を重ねてきましたが――初めてそれによって得できる機会が巡ってきました。
「魔法を使える女を妻にするのは駄目だと母に言われた、だから、婚約は破棄とする」
ツイン王子はある日突然そんなことを言ってきた。
私と彼の出会いはある晩餐会。
ありふれた出会いかもしれない。
珍しいことではない。
でも、彼が私を妻にしたいと考えていることを伝えてくれた時は、とても嬉しかった。
必要とされている。
そう感じられて。
それが何よりも、私に、前向きな色をくれたのだ。
「お母様、が……ですか」
「うん、そうなんだ。僕は君のことは嫌いではない、でも、母は君を良く思っていない。だからこの関係は無理そうだ。ごめん、じゃ、これで」
そう、私は昔から魔法が使えた。
それによって誰かを救えるということもあったから悪いことばかりではなかったけれど。
でも魔法が使えることで悪く思われることもあった。
この国では誰もが魔法を使えるわけではない。
それだけに、魔法を使える者を悪く言う者もいるし、差別してくるような人だっているのだ。
また魔法の才能によって損をするのか――そう思うと辛くて。
「そう、ですよね。……分かりました」
でも受け入れるしかなかった。
だって魔法の才があることが事実だから。
そしてそれは変えられない現実だから。
私はいつだって魔法の才によって多くのものを失うのだ。
◆
ツイン王子との婚約が破棄となった。
悲しみの中で実家へ帰った私。
そんな私の前に現れたのは、牛の頭蓋骨を被った背の高い謎の人物。
「我が国へ来てくれないか?」
その人はそんなことを言ってくる。
「お主は魔法が使えるのであろう?」
「はい」
「ならここでは暮らしづらいのではないか?」
「そう……ですね、それはあります」
「我が国へ来ればそのようなことで悪く思われることはない。我が国では魔法を使うのが一般的だからな」
心が揺れる。
徐々に目の前の人へ引き寄せられてしまう。
「家族も連れてきて構わないが?」
「え。良いのですか」
「もちろん、当然だ。誘拐ではないからな」
私だけ新しい道へ行くなんてことはできそうにない。でも両親も連れてゆけるのなら話は変わってくる。家族皆で進めるなら、家族皆で一緒に歩めるなら、それはそれで一つの道だ。
「行ってみます」
◆
あれから十年、私は、魔族の国で暮らしている。
そして魔族の王の妻となっている。
魔法の才能を認められ、『魔族の母』たる王妃になってほしいと頼み込まれたのだ。
「リオーネさま、こちら、本日のお食事です」
「ありがとうございます」
「先日仰っていた紅茶をつけております」
「あ! これ、好きな紅茶です」
はじめは慣れなかったけれど、今ではすっかりここでの暮らしに慣れた。
文句なんてない。
むしろ快適過ぎるくらいだ。
ちなみに、ツイン王子はあの後わざとらしく近づいてきた怪しい女性に騙されて結婚し、王家の財産をこっそり使われたそうだ。そのことが明らかになると、ツイン王子は「妻の行動をきちんと見ていなかった」ということで、家から追放という処分を受けることとなってしまったらしい。
今ではツイン王子は一般人。王家からお金が出るでもなく。貧しい暮らしに身を堕としているらしい。だが、元王子ゆえの苦労もあり。道を歩いているだけで、時に国民に襲われ殴られることなんかもあるそうだ。贅沢に暮らしていた王子を良く思わない人も一定数はいるのだ。
◆終わり◆




