異種族の姫は種族の壁を越えて幸せに生きてゆく。~意地悪なお義母様には消えていただきます~
ラ・イムはスライム族の国の姫。
人間の女性と同じような見た目だが、肌が青緑色でさらにぷるぷるしており、ミントのような匂いがする。
そんなイムには人間の婚約者がいた。
婚約者ハインズとの出会いはある森。その日イムは気まぐれで散歩していたのだが、帰り道が分からなくなってしまい、泣いていた。そこへ通りかかったのが彼だったのだ。狩りのため森に入っていたハインズだったが、迷子イムを発見した彼は狩りを一旦やめ彼女を帰らせるために尽力した。
そしてイムはハインズを好きになった。
その後色々あったが、イムは無事彼と婚約者同士となることができた。
だが困ったことがあった。ハインズの母親である。ハインズの母親は意地悪な人で、人間でないイムを良く思っておらず、執拗に虐めてくるのだ。しかも、ハインズには隠れて虐めるから、なおさら質が悪い。彼女は日頃はとても善良そうに振る舞っているので、イムが本当のことを言ってもなかなか信じてもらえない。その点が厄介だった。
だが。
「あなた! わたしの息子に術でもかけているのでしょう!? 本当のことを言いなさい!」
「かけていません、お義母様」
「淫らな股どろどろ女! 最低だわ! 顔を見るたび吐き気がする!」
その日、イムの作戦が成功した。
「母さん……本当に彼女を虐めているんだね」
イムはハインズに隠れてもらっておいて彼の母親と会う。そして、隠れているハインズに、母親がどのようなことをするかを見せる。ハインズの存在を知らせないことで母親の本性を引き出す。
そういう作戦だ。
「ふぃえっ!? は、ハインズ……どうして……」
「隠れて見ていたんだ」
「どうして……ここに……」
「イムさんのこと、本当に虐めていたんだね」
「ち、ちちちち違う! 違う! 違うの! これは、これは、そ、そう! 練習! 今度の宴会でやる演技の練習なのよ!」
息子に本性を知られた母親は狼狽えている。
「イムさんの言葉が本当だったと分かった。だから……皆に僕から話すよ、明かすよ。それがイムさんの名誉のためだから」
真実を知ったハインズによって母親の悪い行いが世に出され、彼女に対する世間からの評判は一気に下落することとなった。
そして、それとは対照的に、落ちていたイムの評判は戻り始めた。
発していた言葉。
明かした話。
それらは嘘ではなかった、そう判明したからだ。
ハインズの母親は多くのものを失った。良い評判も友好関係も失われ、さらには、その件を理由に夫からも離婚を切り出され。彼女はあっという間にひとりぼっちになってしまった。そして、一人になるのみならず、無関係の人たちからも過激なやり方で批判されるようになってゆき。そのこともあって心を病み、やがて死を選んだ。
一方、イムはというと。
あのままハインズと結婚し幸せに暮らしている。
「イム! 里帰りするって本当かい?」
「ええ、明後日から」
「僕も行きたいなぁ」
「一緒に行ってみます?」
「え、いいの!?」
彼女は望みを叶えることができた。
「人間だけど……いいのかな、それでも」
「もちろんよ。種族なんて関係ない、私たちは共に生きてゆくパートナーよ」
「ありがとう、イムさん」
ラ・イムとハインズは種族の壁を越えて幸せに生きてゆく。
この先もずっと。
◆終わり◆




