かつて私を一方的に嫌い切り捨てた彼は、後に、二人の女性と関わっていたことで破滅してしまったようです。
私にはルトーインという婚約者がいる。
しかし私は彼に嫌われていて。
嫌みを並べられたり、よそで嘘を言いふらされたり、と、日々傷つくようなことをされてきた。
彼はいつも言う。
お前みたいな女は誰にも愛されないんだ、と。
まるで自分に言い聞かせているかのように。
そんな中で迎えた、ある日。
「急で悪いな」
「いえ」
今朝急に呼び出されたのだけれど、今日は朝から大雨だったので、ここまで来るのも大変だった。風雨の中だと、濡れるし風で色々激しく揺れるし、で。私の家と彼の家はそこまで離れてはいないのだが、それでも、風雨の中移動するとなると苦労した。なぜ今日なのか、と思ってしまったほどであった。
「お前との婚約だが、破棄とさせてもらうことにした」
彼はそう述べた。
苦労してここまで来てこれ?
そう思うともやもやした。
風雨の中ここまで来た私の努力は一体……と思わずにはいられない。
「ルトーインさん……本気ですか?」
「もちろん。俺を何だと思っているんだ、嘘つきとでも思っているのか」
いや、実際嘘つきだろう。
いつもありもしないことを言いふらしているのだから。
今回の件とはまた別だが。
「いえ、急だったので驚いただけです」
「馬鹿だな。嫌われていると気づいていなかったのか」
「それは気づいていましたけど……」
「あっそ、くっだらね。ま、いいや。そういうことだから、婚約は破棄な。これで別れだ、さらばダサ女」
雨降りのこの日、私とルトーインの関係は終わりを迎えた。
婚約を破棄されたことは残念なこととも言えるかもしれない。が、彼に色々されなくて良いという意味では、この結果は良い結果かもしれない。離れてしまえばもう嫌がらせはされないだろうし。きっと今よりは良い明日が待っているはず。
◆
その後私はすぐに結婚相手を手にすることはしなかった。
しばらくは自由でありたかったのだ。
だから私は一人でいようと思い、実家に住んではいるものの、本屋に通っていろんなことを勉強した。
そんな時、私は、行きつけの本屋にて一人の男性と出会う。
彼は六つ年上。
彼もまたその本屋の常連客で。
初めて喋ったのは、彼が大量の本を落としてそれを拾うことを手伝った日だ。それ以来私と彼は会うと挨拶をするようになって。そうしているうちに段々距離が縮まって、いつしか本の話をするようになっていった。好きな本の話とか、おすすめの話とか。そんな風に交流しているうちに親友のようになっていった。
で、そんなある日、私は彼から言われた。
「結婚しませんか?」
かなり驚いたけれど。
数日考えて、はい、と答えることにした。
◆
あれから数年、私は今も、本屋で知り合った男性と夫婦として生きている。
本を読むという共通の趣味があるから、彼との会話には飽きが来ない。話題は無限にあり、喋っているとあっという間に時が過ぎていってしまう。それに、彼は本に関して凄く詳しいので、彼と喋っていると良い刺激があって。楽しい、そう感じられるのだ。
そういえば。
元婚約者のルトーインだが、彼はもう生きていないそうだ。
というのも、二股をしていることがばれたことで恋人の女性に激怒され、殺められたのだそうだ。
また、その亡骸は、葬儀中に恋人でなかった方の女性に襲われ燃やされたそうだ。
女性二人は既に逮捕されているようだ。
けれどもそれで彼が返ってくるわけではない。
死者は戻らない。
とはいえ、二股していた彼にも非はあるので、正直少し自業自得だと思ってしまう部分はある。
どんな理由があっても人を殺めてはならない。
それは事実だけれど。
◆終わり◆




