婚約破棄だけならまだしも師を貶めるような嘘を言いふらすとは……絶対に許せません! 滅んでください!
生まれつき魔法の才を持っていた私はまだ幼かった頃に魔法使いの養子になりゆくゆく魔法使いとなるために修行を重ねてきた。そして、十八の春、正式に魔法使いとして認定された。それからは街へ出て、魔法使いとしてできることを仕事としてきた。
その中で出会いもあった。
「魔法が使えるなんてすごい!」
初めてそう言ってくれた青年オレイズ。
彼が私の最初で最後の婚約者になるのだと思っていた。
――その日までは。
「やっぱさ、魔女とか無理だわ」
「あたしたち愛し合っているのぉ~」
ある日、オレイズは女性を連れて私の前にやって来た。
凹凸のある身体つきが特徴的な女性だ。
「だから婚約は破棄するわ」
「ごめんなさいねぇ~? 奪うみたいになっちゃってぇ。でも勘違いしないでくださいねぇ? あなたの魅力が低かっただけでぇ、あたしが奪い取ったわけじゃないですからねぇ~」
「いいな? じゃ、そういうことで」
「さようならぁ~、元婚約者さぁん。あ! もう追い掛けてこないでくださいねぇ? 諦められなくてもぉ~絶対にあたしたちに寄ってこないでくださいねぇ~」
女性はオレイズに胸をこすりつけながら勝ち誇ったような顔をこちらへ向ける。
それから意地悪にふふっと笑みをこぼした。
◆
結論から言おう。
オレイズとあの女性は死んだ。
私が消し去ったのだ。
婚約破棄されただけなら、そんなことはしなかった。それはただの心変わりだから。不愉快だけれど、感じ悪いけれど、命を奪うようなことはしなかっただろう。婚約破棄される、は、誰にだって起こり得ることだから。
でも、二人は私の師の悪口を言いふらしていた。
しかも嘘を。
それは、それだけは、どうしても許せなかった。
慕ってきた人を、育ててくれた親のような人を、偽りの言葉で穢されて黙っていられるわけがない――だから私は術を使って二人を消したのだ。
先に命を奪ったのはオレイズ。
女性には彼が苦しみ死へ向かってゆくところをじっくりと見せた。
彼女はそれだけで精神崩壊しかかっていた。
それでも、いざ自分の番となると運命を受け入れることなどできず、彼女は暴れ抵抗しようとした。
けれども無駄だ。
一般人の抵抗なんて『て』の字もないようなもの。
私の術で、女性もまた、徐々に死へ向かった。
彼女は何度も命乞いしていたけれど、応じるようなことはしなかった。
妥協できる点なんてなかったから。
許すことなんてできなかった。
そうして二人はこの世から消え去った。
◆
あれから数年が経った。
私は魔法使いとして街で働いている。
実は、恋人もいる。
彼は私の心の支えだ。依存し過ぎは良くないのでなるべく自立できるようにはしているが。それでも、会った時にはいつも、彼と出会えて良かったと強く思うのだ。
◆終わり◆




