婚約者が旅に出たいと言ってきたので認めたのですが……帰ってきた彼は女連れでした。
「愛してるよ」
「ありがとう」
私には婚約者がいる。
彼の名はエルフィリード。
出会ってから婚約するまで、彼は私にとても温かく優しく接してくれていた。
「これからもずっと……穏やかに生きていこう」
「そうね!」
だからだろう、きっと彼となら幸せになれると思っていた。
迷いはなかった。
信じていた。
どこまでも、幸福な光ある未来を。
だが、婚約者同士になってから数ヶ月が経ったある日、エルフィリードは暫し旅に出ると言い出した。
何でも、結婚する前にいろんなところへ行っていろんなものを見て学んでおきたい、ということで。
なぜ今? という疑問はあった。
でも駄目と一蹴するのも可哀想な気がして。
だから私はそれを認めた。
彼が望むことなら、と。
――でも、思えば、それが間違いだった。
「お前との婚約さ、破棄するわ」
数週間後、旅から戻ったエルフィリードは、可愛らしく目をぱちぱちさせる癖のある『あざとい』を絵に描いたような女性を連れていた。
「そんな……どうして」
「彼女と結婚することにしたーってわけ」
「え……」
「気づいたんだ、世界にはもっと素晴らしい女性がいるって」
エルフィリードは勝ち誇ったように笑みを浮かべる。
「お前を素敵な人と思っていたのは女性をあまり見たことがなかったからだって気づいたんだ。だからもう、お前とはやっていけない。もっと素晴らしい女性がいることを知ってしまったら、もう、お前みたいな女は女性として見られなくなってしまった」
なんて勝手な。
酷すぎる。
ずっと待っていたのに。
でも……ここで何を言ってもきっと無駄なのだろう。
「そう、分かったわ」
「いいな?」
「ええ。ただし、契約違反よ。償いのお金は払ってもらうから」
「何とでも言ってろ」
こうして私と彼の婚約者同士という関係は終わった。
その後私は父親に相談。それからそういったことに詳しい知人に頼り、何とか無事彼からお金をもぎ取ることができた。それをもって、彼との縁は完全に切れることとなった。
でもそれでも良かった。
もう彼への気持ちはない――。
さようなら。
これでおしまいね。
◆
数年後、魔獣発生の災害時に助けてくれた男性と結婚した。
命を助けてもらったことから始まった関係、なんて言ったら、ベタ過ぎるかもしれない。
でも事実だ。
あの夜に私たちは出会ったのだ。
私は今、彼の妻となり、彼の仕事のサポートに全力を注いでいる。
彼の仕事は尊いものだ。だって人の命を救うのだから。私も含め、これまでも多くの命が彼の手で救われてきた。その手伝いをできるのだから、こんな嬉しいことはない。この手で直接救うことはできずとも、間接的に人々を救えるなら、それはそれで良いことだと思う。
ちなみにエルフィリードはというと、勝手に婚約破棄し別の女性と結婚したために両親と大喧嘩になり、その最中に母親を殴ってしまったそうで、数年牢に入れられることとなってしまったらしい。
ま、自業自得か。
両親は真っ当なことを言っている。
それなのに、怒り、素直に話を聞かず、さらには殴るなんて。
痛い目に遭っても仕方のないことをしている。
◆終わり◆




