調味料を買うために出掛けたその日、私は見てしまいました――婚約者の彼が女性といちゃついているところを。ごめんなさい、もう無理です。
その日、私は見てしまった。
調味料を買うために出掛けた街中で。
婚約者オーブが私の知らない女性といちゃついているところを目撃してしまう。
「あたしのこと好きぃ?」
「ああ好きだよ」
路地裏、口づける二人。
外でいちゃつくなんて……。
大丈夫か……。
ある意味心配になる。
確かに人通りはあまりないところだけれど、屋外なので急に人が現れる可能性だってある。通行禁止の道ではないのだ、人通りはゼロと決まってはいない。なのに、そんなところでいちゃいちゃするなんて、大胆過ぎる。
「でもぉ、婚約者いるんでしょ? 本当はそっちの方が好きなんじゃない? どうなのぉ?」
「もちろんお前の方が好きだ」
「本当にぃ? どっちでも都合のいいこと言ってるんじゃないのぉ」
「そんなことない。あの女は親の都合で決められた女、俺が結婚しようと決めたんじゃない」
そうだったのか。
真実を知ってしまった瞬間の虚しさは何とも言えないものだ。
私は彼を愛していた。
私は彼を信じていた。
でも――私が馬鹿だっただけだったようだ。
「そうだったのですね」
二人の前に姿を現す。
胃が飛び出そうだ。
内臓がきりきりと痛む。
それでも退いてはならない、ここは踏み込まなくては。
「すべて理解しました」
今日ここでおしまいにする。
すべてを。
「なっ……どうして……!?」
「貴方との婚約は破棄します」
「なぜ君が!?」
「そちらの女性と幸せになってください、ではこれにて、私は失礼致します。……さようなら」
涙は見せない。
彼らには。
これは私の意地だ。
この涙は私だけのもの。
あんな人たちには絶対に見せない。
◆
あれから数年、私は、学園時代の友人が紹介してくれた男性と結婚した。
刺激的な出会いや恋ではなかった。
けれども彼といると、なぜだから分からないけれど、穏やかさ温かさを感じることができた。
だから私たちの相性は悪くないと思う。
ちなみに、オーブとあの女性はというと、あの後結婚するもお互いの浮気が発覚して刺し合うこととなったようだ。
まぁ、ある意味、お似合いだったのかもしれない。
共に浮気するなんて。
そっくりさんではないか。
ただ、自分は浮気をするのに相手の浮気は許せない、というところに関しては……少々勝手だなとは思う。
しかし、刺し合って数日差だけで死ねたというのは、二人にとっては不幸中の幸いだったのかもしれない。
いや、もう、何が幸福か分からないが……。
とにかく、巻き込まれなくて良かった。
私はそんな渦に巻き込まれ死にたくはない。
穏やかに生きていたい。
刺激よりも平穏が欲しいのだ。
◆終わり◆




