婚約破棄はいきなり訪れた。~それでも辿り着けた、愛の果て~
「ルルア! お前とはもうやめる!」
「え――」
「もっと素晴らしいやつと出会えたんだよ! だからお前なんかもう要らないんだ! 婚約は破棄な!! ……じゃ、そういうことで」
そんなテンプレートのような婚約破棄が私の生涯に存在するなんて思っていなかった。
でも存在した。
それは事実で。
実際私は婚約者オリーガから終わりを告げられてしまったのだった。
◆
「ルルア、ご飯くらいちゃんと食べなさいよ?」
「は~い」
私は今、実家で暮らしている。
食欲はあまりない。でも泣いてはいない。悲しみの海に沈んでいるわけでもない。ただぼんやりしているだけ。絶望してはいない、けれど、光を見つけることはできていない。ぼんやりしたまま、時間だけが流れてゆく。
窓の外には澄んだ空がある。
そして白い鳥が飛ぶ。
生命のように駆け抜ける風に乗るようにして。
そんな様子を眺めている――それだけが、今の私の楽しみだ。
空はいい。
自然はいい。
いつ見ても美しいから。
晴れていても、曇っていても、雨が降っても――どんな天候の日でも外には美しさがある。
だから好き。
人も嫌いではない、いや、嫌いじゃなかった。好きな人と一緒にいられれば幸せになれそうに思って。明るい未来を見ていられた頃もあった。でももうそれは無理だ。空の、鳥の、美しさに気づけても。人と歩む道の美しさと愛おしさはもう感じられないし、小さな光に気づくことさえできない。
私はただ時間を潰す。
美しい、そう思える窓の外へ目をやりながら。
◆
婚約破棄から数ヶ月が経ったある日、私は庭へ出た。
そしてそこで出会う。
知り合いですらなかった一人の男性と。
「あの……この庭、とても綺麗ですね」
彼は柵越しにそう声をかけてくれて。
「ありがとう、嬉しいです」
私はそう返した。
それが始まりとなった。
私と彼、二人の。
◆
「まさかあなたと結婚しているなんて思わなかった」
「ですよねー」
「本気?」
「僕だって、貴女みたいな綺麗な人と結婚できるなんて思っていなかったですよー」
あの日、柵越しに出会った彼と、私は結ばれた。
「でも、貴女と出会えて良かったです」
「……正直照れるわ」
私と彼は今夫婦だ。
互いの親たちも納得し祝福した関係。
「そうですか?」
「ええ……、だって、そんな風に褒められたら。照れるわよ」
「意外ですー」
「そう?」
今は人と歩む未来に光を見つけられる。
彼となら。
きっと希望ある未来へ行ける。
「はい。だってルルアさん、貴女はいつも堂々としているじゃないですか。照れる、なんて、意外ですよー」
彼と向き合って笑い合える。
それが何より嬉しい。
いつまでもこうしていたいと思うほどだ。
「幻滅した?」
「まさか! むしろ好きになりました!」
「ええ……」
「えっ!? おかしですか!?」
「いいえ、違うの。そこまで言ってもらえるなんて、と、驚いたの」
「えー? そうですかー? これからも何度でも言いますよ!」
世界は今日も美しい。
空も。
鳥も。
でもあの日の美しさとは違う。
愛しい人といて、一緒に見つめる。
だからこそ美しくて。
そして世界そのものがこんなにも愛おしいのだ。
「言わせてくださいねー?」
「ええ……」
ちなみにオリーガはというと、私を切り捨てた後婚約した大好きな女性と上手くいかなかったことで人間としての自信を完全に喪失してしまい、以降親以外の誰とも言葉を交わせなくなってしまったそうだ。
◆終わり◆




