婚約者まで姉のおさがりとは切ないです。しかも彼は姉だけを愛しているようですからますます意味不明です。
思えば私は何かと損な役回りだった。
姉は美しい人で性格も良く笑顔も華やか、ということもあって、私は親からも親戚からもあまり大事にされてこなかったのだ。
皆、姉ばかりを気にかけて可愛がり、妹である私のことはほぼ放置。
そして、年頃になった頃に私にあてがわれた婚約者ヘブンズヘートも、姉が「その人はちょっと……」と断った人だった。
「あっははは! はじめまして!」
「こちらこそ」
でも最初はそれでもいいと思った。
悪くばかり考えるのではなく、彼に愛してもらえるよう頑張ろう、と思っていた。
けれど――。
「やっぱり妹さんとは無理だわ」
「え」
「婚約、破棄するっす!」
「え……」
ヘブンズヘートは私を受け入れなかった。
「俺が好きなのはお姉さんだしさぁ、やっぱ、好きでもない人と生きるとか嫌だし? てことで! ばいばーい、でっす!」
彼は正直者だ。
本当のことをはっきりと言ってくれる。
そこは嫌いじゃない。
でも私が嫌いでなくても彼は私を良くは思えないようで。
そんな状態で上手くいくはずもなく。
「……いつまでそこにいんの? 早く出ていってくれよな」
姉しか見ていないヘブンズヘートは私を切り捨てた。
◆
あれから五年。
「ねぇねぇ、ちょっといいかなぁ」
「はい」
私は結婚した。
この国の王子フリランと。
ヘブンズヘートには捨てられたけれど、親からも親戚からも価値の低いもののように扱われて来たけれど、フリランは違った。
彼は私を一人の人間として見てくれている。
そして可愛がってくれている。
「はいっ」
「え」
「プレゼントだよ!」
彼の手には小さな箱。
そしてその中には可愛らしい小ぶりな花束が入っている。
「これって……」
「薔薇好きって言ってたよねぇ」
「あ、は、はいそうなんです」
「綺麗な薔薇のがあったからさ、贈ろうと思って!」
「そんな……その、ありがとうございます」
私は今幸福の中にいる。だってこんなにも大事にされているのだ。彼と歩むたび生まれて初めての経験が増える。嬉しいことだ、それはとても。彼とならまだ見たことのない未来を見られる気がする。
「気に入ってもらえそうかなぁ」
「はい! とても!」
「ほっ、良かったぁ。ちょっと自信なかったんだぁ」
「嬉しいです」
ヘブンズヘートはあの後どうしても諦められず姉を追い掛け回したそうで、その追い掛けがあまりに酷かったために迷惑行為とみなされ、治安維持組織に拘束されてしまったそうだ。
彼はそれ以来ずっと牢にいるそう。
朝から晩まで無賃で働かされ、食事は余り物の冷えて不味いものばかり、自由時間はほとんどなく、身体を洗えるのも週に一回あるかないかくらいしかない――そんな生活だそうだ。
一方姉はというと、ヘブンズヘートに追い掛けられた時の恐怖が原因となって男性に対して恐怖を感じるようになり、父以外の男性が近づくと気を失うようになってしまったらしい。
ま、もはや私には関係のないことだが。
◆終わり◆




