幼馴染みの女性を虐めた? 私はそのようなことはしていませんししません。どうしてそんな嘘を信じるのですか?
「お前はリリエを虐めた! 許せることではない! よって、婚約は破棄とする!!」
その日、私は告げられた。
王子ウィクレーから。
彼は冷ややかながら強い調子で私を切り捨てるという言葉を発した。
ちなみに、リリエというのは彼の幼馴染の女性である。とはいえ詳しいことは知らない。顔を見かけたことはあるけれど、喋ったことがない。彼女との関係はそのくらいのものだ。
「待ってください! それは何かの間違いです! 私は虐めてなどいません」
「はぁ? お前の言葉なんぞ今さら信じるわけがないだろう。どこまで馬鹿なんだ」
馬鹿、なんて、どうして言われなくてはならないのだろう。こちらに非はないのに。それに、失礼ではないか。馬鹿、なんて。彼は私になら何を言ってもいいと思っているのだろうか。
「馬鹿だと言われたとしても……それでも、私は虐めていません。もし虐めていたというのなら証拠を出してください」
「リリエを嘘つきだと言うのか!?」
「私とて、そうは思いたくありません。だからこそ証拠を求めるのです」
「証拠!? そんなもの、あるわけがないだろう!? お前がすべて消しただろう!?」
「いいえ、私は消してなどいません。そもそも何もしていませんし」
証拠はないだろう。
だって私は何もしていないから。
だがウィクレーは証拠がないくらいでは理解を示してはくれず。
「まあいい! いずれにせよ、お前とはもう一緒にいたくない。よって! 婚約は破棄とする! 城から出ていけ」
彼はそう言って強制的に私を城から追い出した。
私は追放される形となってしまった。
だが、その直後に、私のことをよく知っていた侍女たちが「あの人はそのようなことはしていません」と言ってくれたようで――暫し調査が行われた後に私によるいじめなどなかったということが証明された。
「あの時は悪かったな、お前ともう一度やり直すことにした」
結果が出ると、ウィクレーは私を呼び出した。
「やり直す、ですか」
「ああ。いいだろう? お前はそれを望んでいるだろう?」
「いいえ、望んでいません」
もう彼には付き合わない。
「やり直すという件ですが、お断りします。ではこれで。さようなら」
私は彼の前から去った。
前回とは違って自分の意思で。
だって、もう、彼に振り回されたくないのだ。
あ、そうそう、リリエはあの後『嘘をつき王族を騙した罪』によって拘束されたそうだ。
牢に入れられ自由を奪われ。
長時間労働を強制され。
三十年にわたってほぼ奴隷のような扱いを受けることとなったようだ。
彼女はこの先長く奴隷のような存在として生きてゆく。人として生きてゆくことはできない。
でも自業自得。
罪なき王子の婚約者をはめようとした者が悪い。
悪意はいつか己に返る。
それは事実だった。
彼女は私をはめようとしたために残念なことになってしまったのだ。
ちなみに、ウィクレーはというと、父から問題を起こしたことを叱られ一年謹慎という罰を与えられたそうだ。
彼もまた、今、自由を失っている。
――でも私は違う。
罪なき私は何も失わず。
後に近くの国の第一王子に気に入られその人と結婚した。
よその国へ行って生きることなんてそれまでちっとも考えていなかった。
でも彼には惹かれて。
それが私に決心させた。
彼という存在が私を新しい道へと招いたのだ。
私は今いる場所で生きてゆく。
これからも、ずっと――。
◆終わり◆




