『安寧の女神』の生まれ変わりだった私は、怪しい女性の術のせいで一度は城から追放されてしまいましたが……。
この国で長く語られる『安寧の女神』の生まれ変わりだった私は、幼い頃から国によって保護され、温かな人たちの中で育ってきた。
そして、ある程度の年齢になると、年が近く幼い頃から仲良かったオーガス王子と婚約。
流れに乗せられて、という部分も多少はあったけれど、人の生とは大体こんなものだろうと思っていた。
一般人でも、親が決めた相手と、ということもあるのだし。
それに比べればまだ良い方だと思えた。
まったく知らない人と婚約させられ結婚させられるなら厳しさもあるかもしれないけれど、昔から知っている彼となら仲良く上手くやっていけるだろうと思ったのだ。
実際、オーガス王子とはお互い仲良しで、婚約が決まった時も「良かったね」と言い合えた。
だが、婚約から数ヶ月が経ったある日、彼から急に告げられてしまう。
「悪いけど、君との婚約は破棄するよ」
オーガスはきっぱり言ってきた。
何の前触れもなかったのに。
でも……。
彼の心はもう決まっていて、迷いなんて一切ないようだった。
「そんな、どうして……」
「君のことが嫌いになったんだ」
「酷い……」
ずっと仲良しだったのに。
「じゃあな、ばいばい。あ、そうだ、城からも出ていってくれよな」
「城から!?」
「ああ。もう要らないんだよ、君は」
「待って! 急にそんなこと言われても!」
「いいから出ていけよ」
こうして私は追放された。
――だがその後私は何が起きていたのかを知ることとなった。
王城に出入りしている怪しい女がいるらしく。
その女が現れてから王族たちの言動におかしな点が出てきたそう。
彼女に何かあるのでは、という噂が流れ出していた。
私は調査を重ねるうちに彼女が王族を操りこの国を手に入れようとしているということが分かってきた。
――やはりあの時のオーガスはどうにかなっていたのだ。
確信した私は仲間を増やして女性の排除を試みる。
それがこの国のためだから。
生まれた国を守るためであれば衝突も厭わない。
◆
活動開始から二年半、私たちはついに女性を排除することに成功した。
女性はやはり王族や要人に術をかけていた。
すべて彼女が操っていたのだ。
だが、術封じの拘束具で拘束してしまえばどうということはなく――その後彼女は処刑された。
彼女の亡骸は数週間にわたり人々の前に晒された。
その身には多くの落書きが施されていた。
それらは国民が書き込んだものだ。
その多くが、女性の行いを強く批判するものであった。
こうして、国に平穏が戻る。
「あの時は本当にごめん」
「オーガス……」
「操られていたとしても、それでも、許されないことをしたと思う。でも、もし君が望んでくれるのなら……もう一度やり直したい」
私は再びオーガスのもとへ戻る。
「もちろん、もちろん……共に生きましょう」
こうして私は再びオーガスとの道を歩き出す。
◆
やがて王となったオーガス、その隣に私はいる。
かつては『安寧の女神』の生まれ変わりと呼ばれていたけれど。
今はそれも変わり。
皆からは『安寧の女神』と呼ばれている。
私は女神ではない。人間だ。ただの女性でしかない。が、それでも、生まれ育ったこの国を愛している。平穏を、幸福を、望んでいる。だからこの国のために生きていく覚悟を持っている。
この国がいつまでも幸福の多い国であれるよう――そのために働き、そのために生きる。
◆終わり◆




