船を造りたい令嬢は構ってほしい派婚約者から婚約破棄を告げられてしまう。
学園卒業後、船を造る技術の研究に身を投じていた私は、二十代前半になると親が用意してくれた男性と婚約し婚約者同士となった。
正直なところ、私はそれでも良かった。
どのみちいちゃつくような関係になる気はない。
ならば誰でも良いと思っていたのだ。
親が選んだ人ならそこまでまずい相手ということもないだろうし、さらりと生きてゆくくらいなら相手がどんな人でもそこまで関係ないだろうと考えていたのだ。
だが、婚約者エリザベンは、婚約してからも研究に打ち込んでいたことを良く思っていなかったようで。
「君との婚約は破棄するよ」
その日、彼はそう告げてきた。
「僕はもっといちゃいちゃしたい。でも君は仕事ばっかりで僕に構ってくれない。……正直もう疲れたよ」
彼の言葉を聞いて驚いた。
そのようなことを求められているとは思っていなかったのだ。
形だけの婚約。
何となくの結婚。
――そんなくらいのものだと思っていた。
「僕は君のことが好きだったけど、君はちっとも相手してくれなかったね」
「好き……だったのですか!?」
「当たり前じゃないか、婚約したんだよ? 好きじゃない人となら最初からそんな契約は結ばない」
「そうでしたか……それは、申し訳ありませんでした……」
申し訳ないことをした、そう思ったのだが。
「でももう君のことは好きじゃない。今、愛している人がいるんだ。とても美しくてとても可愛らしい人だよ。だからもう君のことなんてどうでもいいんだ」
続く言葉を聞いて冷めてしまった。
「承知しました。では……婚約破棄ですね、さようなら」
「ああ」
こうして私とエリザベンの関係は終わりを迎えた。
◆
あれから三年、私はついに船を造り上げることに成功した。
それはこの国においてかなり大きな出来事で。
その件で私やその周囲の知名度は一気に上がった。
今は次の仕事がたくさん舞い込んできている。
稼げるうちに稼いでおけばいい。そうすればもし稼ぎが減ったとしても生きてはゆけるから。だから私は日々仕事に打ち込む。今できることをする、それが一番だと思うから。
◆
船造りの成功から十二年、この国で十本の指に入るくらいの富豪になった。
それでも仕事は辞めていない。
今も研究に打ち込んでいる。
ただ、変化がなかったかというと、そんなこともなかった。
研究をしていた頃の知り合いだった青年と結婚した。
もう今から数年前のことだけれど。
で、彼とは今も、夫婦として順調に歩めている。
ちなみにエリザベンはというと、私との婚約を破棄した後に好きだった女性と同棲するようになったらしいが、次第に出掛けることを許されなくなり――監禁と言っても過言ではないような状況におかれてしまっているらしい。
そうなった原因は彼にあったようで。
彼が一度こっそり他の女性と会っていたことだったようだが。
そういうこともあって女性の対応も段々厳しくなり。
親の葬式にすら参加させてもらえなかったそうだ。
◆終わり◆




