婚約して調子に乗っていた妹ですが、過去に嘘を並べていたために婚約破棄されたようです。
「聞いて! お姉様! あたくし、大金持ちのウルへ様との婚約が決まりましたの!」
その日、妹リリは、嬉しそうに駆けてきた。
「ウルへ様? ……あぁ、確か、前に言っていた」
「そうですわ! 馬鹿でもさすがにそれは覚えていらしたのね!」
「聞き覚えがあるわ」
「うふふ! お姉様、残念でしたわね!」
「え? どういうこと?」
「妹のあたくしに先を越されるなんて、女として最大の屈辱――ですわよね?」
リリはことあるごとに煽ろうとしてくる。
少々厄介だ。
しかも自分が満足するまで延々とついてくるからなおさら鬱陶しくややこしい。
「リリが幸せになれるなら嬉しいわよ」
「あーらあらあらぎーぜーん。ま、我慢しているのは偉いですわね? でも今、心の中は穏やかでないのでしょう?」
「まさか。そんなことないわよ」
「またまたー。嘘ですわね、ばれてますわよー」
まぁ確かに鬱陶しい人と離れられるという嬉しさはある。そういう意味では心の揺れもないとは言えないのかもしれない。でも、彼女が期待しているような心の揺れは、正直あまりない。
「リリ、幸せになってね」
「ま、礼を言っておきますわ。ありがとうお姉様」
◆
妹リリが婚約することになったという自慢を耳にした日から一週間。
私は彼女が婚約者に切り捨てられたことを知った。
彼女はあんなに張りきって喜んでいたのに一体何があったのだろう、と思っていたのだが――どうやら、婚約破棄された理由は、リリの言葉に偽りがあったというものだったようだ。
リリは『国開催・美女コンテスト』の優秀賞を受賞したことがあると言っていたそうで。しかしそれが嘘であることが判明し。それによって婚約は破棄ということになったのだそう。
ま、リリが嘘をついていたのなら、捨てられるのも自業自得というやつだろう。
そうして一度は光を掴みかけながらも絶望に堕ちたリリは正気を失った。
彼女は情緒不安定になり、号泣していたかと思えば急に激怒して暴れ出したり親を殴ったりと、とんでもない状態になっていた。母はもちろん、父までも、彼女に殴られたり蹴られたりというようなことをされていた。
ちなみに私はというと、家を出た。
リリの行いがあまりに酷かったので、そのことを気にした伯母が引き取ってくれることとなったのだ。
◆
リリが婚約破棄された日から今日で二年――私は今日、めでたく、愛する人と結ばれる。
妹や親とはあれからはもう一度も会っていない。
彼女らは当然結婚式にも来ない。
それでも孤独ではないし私には伯母がいてくれる。
「色々大変だったね。これからはきっと幸せに生きられるよ、だから、明るくいてね」
「もちろん。……ありがとう」
◆
結婚から数年が経ったが、私は今も、夫と共に穏やかに暮らせている。
一方で、妹リリや親は残念なことになっているようだ。
母親はリリからの暴力が悪化し耐えられなくなったことで自ら死を選んだそう。で、父親はそのことにショックを受けこの世に絶望し、わざと馬車に突っ込み事故のふりをして死を選択したらしい。
そして、一人遺されることとなってしまったリリは、一人で生活はできない状態のため施設に入れられたそうだが、そこではかなり酷い扱いを受けているそうで。
正気を失っている彼女はもはや人とは捉えられておらず、あかりはなく掃除もされていない部屋に一日中拘束されているような状態だそうだ。
◆終わり◆




