美しいと褒めてくれていた婚約者でしたが……彼の愛は長くは続きませんでした。
「君みたいな美しい女性、初めて見た! 素晴らしい!」
婚約者となった男性エルビーが最初に私にかけた言葉はそれだった。
彼は私の惚れたそうで、私の親に直接交渉した。そして、その積極性を認められたらしく、彼は私の婚約者となった。私の意思はほぼ無関係だった。
でもそれで良いと思っている部分もあった。
どうせ結婚相手なんて勝手に決まるものだから。
自分で選ぶなんて選択肢はないのだと、幼い頃から教わってきていたから。
嫌われていないだけまだましだろう――そう思って、私はエルビーと行く道を受け入れたのだった。
◆
しかしエルビーは私を長くは愛さなかった。
大事にしてくれていたのははじめのうちだけで。
次第に彼の心は私から離れていった。
そして。
「君との婚約は破棄することにしたよ」
婚約から数ヶ月が経ったある日、彼からそう告げられた。
予感はあった。
だからそこまで驚きはしない。
「そうですか、分かりました」
そう返すと。
「やはり可愛くないな! 生意気な女!」
親の仇を睨むような顔をされてしまった。
確かにそうかもしれない。
私は可愛い性格ではない。
それは分からないでもない。
ただ……そんな憎んでいるような顔なんてしなくていいのに、とは思ってしまった。
「では失礼します」
「性格ごみ女消えろ!」
◆
後日、エルビーが三つ年下の女性と結婚することになったと知った。
エルビーとその女性の結婚式には行かなかった。一応お誘いはあったのだけれど。さすがに気まずかったのだ。婚約破棄直後に彼の結婚式へ行く、は、さすがに無理だった。女性としても良い気はしないだろうな、とも思ったし。
どうせ終わったのならすべての縁を切った方が良いだろう。
それが私の考えだった。
――そして私は知ることとなる。
エルビーと女性の結婚式中に会場の裏の山が急に崩れ、新郎新婦はもちろん参加者までも生き埋めとなってしまったことを。
その数日後新郎新婦は掘り出されたそうだが、その時には既に亡くなっていたそうだ。
で、参加者にも死者が出た。
多くの負傷者に加え、死亡する者も出てしまったというのだから衝撃である。
祝いの場で災難に見舞われる。
それほど恐ろしいことはない。
そんなことになったら、もし生き延びていたとしても、嬉しさも喜びも消え去ってしまうだろう。
◆
あれから数年が経った。
私はある山登りイベントにて知り合った男性と結婚し、既に一児の母となっている。
想像していなかった、個人的な出会いからの結婚となったが――彼との関係は良好であり、この選択をしたことを後悔はしていない。
むしろ、これが最善であったとさえ思う。
◆終わり◆




