「俺は決めた! 愛する人と結婚するんだ!」ですか……いや、さすがに引いてしまいます。
「俺は決めた! 愛する人と結婚するんだ!」
ある日突然そんなことを言い出したのは、私の婚約者オルゲイツ。
彼は瞳を燃やしている。
熱血少年のように。
暑苦しいと思ってしまうほどに。
「……今、何て?」
「愛する人と結婚する、って言ったんだ!」
「それはつまり」
「ああ! そうだ! お前との婚約は破棄とする!!」
普通にトランプをしていたのにいきなりそんなことを言われたものだからかなり驚いた。
いや、さっきまで普通に遊んでいたわよね?
ついそんな風に思ってしまう。
突っ込みどころが多すぎる。
でも逆に多すぎてどこから突っ込めば良いのか分からない。
「婚約を破棄するの」
「ああ!」
「で、他の誰かと」
「そうだ! 俺には愛している人がいる! だから彼女と結婚する!」
「……本気?」
「もちろん! 俺は嘘などつかない!」
「その女性というのは――」
「既に深い仲になっているんだ! 日々愛し合っている! そして、共に生きていこうと喋っているんだ!」
……婚約者がいる身で何をしているのか。
「隠していたのね、その人のこと」
意地悪に言ってやる。
せめてもの仕返しだ。
「え?」
「そんな人がいるなんて聞いていないわよ」
「そ、そそそ、そうか!?」
「ええ。でも……良かったわ、貴方の本当の心を知ることができて」
崩れてゆく、私と彼の世界が。
「じゃあね。……あ、一応言っておくけれど、一方的に婚約を破棄したお金は払ってもらうからね」
「は? 金なんか払わないぜ?」
「残念だけど、払うことになるわよ」
「愛してる人と結ばれて何が悪いんだ! 俺に愛されなかったからってそんな性格ぶすになるなよ!」
「婚約した時の書類にそう書いてあったはず――ま、覚えていないかもしれないけれど、そういうことよ」
その後私は彼に償いのお金の支払いを求めた。
だが彼は支払いを拒否。
私は父親に相談し、父親はそういうことに詳しい知人に相談し、再び支払いを求めるが、それも拒否され。
そして、彼は拘束された。
オルゲイツは死にはしない内臓を抜かれ、それを売って出た儲けから償いのお金がこちらへ支払われることとなった。
彼は健康体ではなくなってしまった。
生きていても生きているだけ。
生きれば生きるだけお金がかかってしまうような状態となっている。
それでも生きてほしいと願い者もいただろう――もしそれが不運な病や事故によるものであったとしたら。
でも彼の場合は違う。
彼の行いが彼の身をそこへ至らせた。
――オルゲイツは両親からも仲良くしていた女性からも見捨てられた。
彼は山奥に捨てられた。
その後は誰も知らないが。
捨てられた日以降、生きている彼の姿を目にした者はいない。
◆
時が流れ、私は一人の男性との縁を得た。
彼は魔法使いの一族に生まれるも魔力を持たなかった人だ。
彼は一族の中で心ない扱いを受けてきたようだが、それを糧に優しさを手に入れた珍しい人だ。
痛みを感じてきたことから人の痛みも感じられるようになった彼は、他者を傷つけるようなことは絶対にしない。
彼となら歩めるだろう。
穏やかな道を。
心安らぐような日々を。
◆終わり◆




