婚約破棄されたので仕事に生きることにしました! ~親から貰った店を国で一番の人気店にしてみせます~
「俺らずぅーっと一緒にいようなぁ!」
「ええ! あたしたち心の友! 一日に千六百二十回愛し合いましょう!」
その日私は見てしまった。
婚約者ケインが私の知らない金髪の女性といちゃついているところを。
その日私が彼の家に行ったのは用事があったから。
借りていた本を返しに行ったのだ。
確かに前もって言ってはいなかった、ふと思いついての訪問であったことは事実だ。
でも。
「あの……これは一体?」
まさかこんな光景を目にすることになるとは思わなくて。
「どうして……半裸、なのですか?」
ただの知人なら。
ただの友人なら。
さすがにそんな薄着にはならないだろう。
二人きりで喋ることになっていたとしても――服はまともに着ているはずだ、何もないなら。
「なっ……どうして!? どうしてそんなところにお前が!?」
青ざめるケイン。
どうやらやらかしていた自覚はあるらしい。
「借りていた本を返しに来ただけです」
私は本当のことだけを話す。
「ふ、ふざけるな! 来るなら前もって連絡しろよ!」
「そのようなことは言われていませんでしたけど……」
「当然のことだろ! 当然のことだから言わなかったんだ! なんて無礼な女、信じられねぇ!」
急に怒り出すケイン。
「お前みたいなやつ! 見たくない! 婚約は破棄だ!」
「……女遊びをしておいてそれですか」
「生意気なやつめ! どうやら育ちが悪いようだな!」
……こちらの方が家柄は上なのだが。
「いいから消えろ! お前とはここでおしまいだ!」
「そうですね」
私とて、あんなものを見せられては耐えられない。
離れたい、そう思ってしまう、心の底から。
婚約者がいる身で異性と半裸になっているような人と一緒に生きてゆくのは無理だ。
その後私たちの婚約は解消された。
◆
あれから数年、私は、親が営んでいる店をゆくゆく継ぐべく手伝いを始めた。
最近は親と共に働いている。
毎日とても忙しい。
でも常連客に優しくしてもらえたり温かな声をかけてもらえたりするのは嬉しいしより一層やる気が出てくる。
何より、結婚がすべてではない、と思えるのが嬉しい。
ちなみにケインはというと、あの後女遊びをし過ぎて病を貰ってしまい、最終的にはその病によって命を落とすこととなったそうだ。
一応治療はしていたようだけれど。
医師が怪しい者だったこともあってか、なかなか治らず。
そのうちに肉体が弱っていってしまったそうだ。
彼の最期は、ベッドで一人。
とても物悲しいものだったそうだ。
◆
親の店を継いで十年。
結婚はしていない。
けれども親から貰ったこの店を国内一位の人気店にすることができた。
これまでの人生、そのほとんどが仕事の色に染まっていた。
もちろん恋だってしたけれど。
それはあくまで彩の一部。
私の生、その主は、この店と共に歩み、この店を花開かせることだった。
それでも後悔はしていない。
私にはこの道があるから。
◆終わり◆




