いたずら感覚で魅了魔法を使って婚約を壊そうとした妖精を私は絶対に許しません!
「君への想いは気のせいだったと気づいたんだ。だから君とは生きていかないことにした。君との婚約は破棄とするよ」
婚約者エメラが急にそんなことを言ってきた。
しかし彼の様子が少しおかしい。
そのことを不審に思っていると。
「あっはははぁ! 捨てられてやんのー! 地味ばばあざっまぁー!」
一匹の妖精が飛びながらそんなことを言ってきた。
そういうことか。
これは彼女のせいか。
恐らく、妖精の魅了魔法だろう。
「ふられて泣け泣けー! ばばぁの涙だいっすっきぃー!」
「うるさい妖精ね」
私は片手で素早く飛び回る妖精を捕まえた。
普通の女のように見える私だけれど、実は、幼い頃から握力が凄まじいのだ。りんごを素手で潰すくらいどうということはない。その握力で妖精を捕まえたなら、絶対に離しはしないのだ。
急に怯えだす妖精。
先ほどまで全力で煽っていた顔が恐怖に染まりきっている。
見ているだけでかなり面白い。
自然と笑みがこぼれてしまうほどの愉快さだ。
でも、本当に面白くなるのはここから。
その日私は妖精を自宅へ連れ帰った。そして、自室の瓶に入れ、罰を与えることにした。瓶を水で満たしてゆく、それだけでも愉快だ。生意気だった妖精の顔が恐怖に染まってゆく、その様子を眺めているだけですっきりできる部分がある。
「い、いやぁ……水、怖い、のぉ……」
「私の婚約者に余計なことをした罰よ。しっかり受けなさい」
「妖精の羽根、はぁ……濡れると、溶けちゃう、のぉ……溶けると、痛い、のぉ……」
「痛いのね? そう。良かったわね」
「悪魔ぁ……」
「ま、これだけで終わりではないわ。死ぬこともできず怯え続けなさい」
それから数日が経った頃、妖精の仲間たちが妖精を救うべく家にやって来たので、殺虫剤として使っている薬剤をぶっかけた。それによって、助けに来た妖精たちの半数以上が溶けるか死亡するかして、大人しくなったので死骸は山に捨てておいた。
その一部始終を瓶の中で見ていた妖精は、その日以来心を病み、瓶の中でほぼ動かなくなってしまった。死なせないように一日一滴だけ与えていた蜜も、これまでは飲んでいたのだけれど、ほとんど飲まなくなった。そうなると自然とみるみる痩せていく。
それから数週間、妖精は死亡した。
妖精に人権はないので死亡した後こうしなくてはならないというような決まりも特にはない。
そこで、この妖精だけは、他の者たちを捨てたのとは別の山の崖の近くに捨てておいた。
◆
その後、魅了魔法がとけたことで正気を取り戻したエメラと話し合いの場を設け、彼に婚約破棄の意思がなかったことも確認したうえで婚約破棄の話はなかったことにした。
これで私はエメラと共に再び歩み出せる。
「魅了魔法……そんな恐ろしいものがあったなんて。あの……勝手に婚約破棄なんて言って……本当に、本当に、申し訳なかった。ごめんなさい」
エメラは何度も何度も謝ってくれた。
正直しつこいと思ってしまうくらいに。
彼は謝罪を繰り返した。
「いいのよ、もう過ぎたことだわ」
謝ってもらえたからだろうか?
私は彼を意外とすんなり許すことができた。
「妖精のせいにはできないよ。たとえ魔法のせいだとしても、それでも、僕が言ったという事実は消えないから」
「そんな。いいのよ。もう気にしないで」
「ごめん……でも、そう言ってもらえて救われたよ。ありがとう」
「これからもよろしくね、エメラ」
「うん! こちらこそ! よろしく」
◆
こうして結ばれた私とエメラは、生涯を共にする関係となり、あれから数十年が経った今も二人幸福に暮らしている。
◆終わり◆




