婚約破棄されてしまいましたが、より良い人に出会えたので良かったです。~春夏秋冬、いつだって幸せです~
たとえ決められた婚約者であったとしても、結婚すれば幸せを手に入れることができる。
そう信じていた。
その日その瞬間がやって来るまでは。
「悪いなぁ、ネーベラ。お前との婚約は破棄とさせてもらうわ」
「え……」
婚約者ダブに呼び出され、何も思わず彼のところへ行った。
結婚に関する話か何かかと思っていた。
けれども現実はそれほど甘いものではなくて。
「婚約、破棄……ですか?」
「そういうことさ」
彼は私を切り捨てることを選んだ。
そしてそれを告げた。
彼の隣には一人の女性がいる。とても可愛らしい雰囲気の人だ。ふわふわの綺麗な金髪、くりくりした瞳と華やかな長い睫毛、つんと尖った柔らかそうな桃色の唇。身体は大きくなく、全体的に自然と守ってあげたくなるような丸みを帯びている。そして、愛らしい中でも女性らしい凹凸はあり、愛くるしい雰囲気と女性らしい線が同時に存在していた。
「俺は彼女と生きる」
ダブは隣の女性を抱き締めながら言った。
あぁ、そうか。
よく分かった。
もうすべてを理解した。
ダブは隣の彼女を愛しているのだ。隣の女性のことが愛おしくて仕方ないのだ。見ていれば分かる、隣の女性へ向ける視線はとても優しい。私は一度もそのような視線を向けられたことはない。婚約者として過ごしてきた私だからこそ、はっきりと言える。
確かに彼女は可愛い。
私では勝てやしないだろう。
「そうですか……分かりました」
ここは諦めよう。
春の日、私は彼の前から去った。
◆
春が終わる頃、実家に住み暮らしていた私は、父親の紹介で一人の男性と出会う。
名はオプストフという。
彼は少々もっちりした風貌の人だった。
美男子かというと分からない。
けれども、顔つきからして優しそうで、話しやすかった。
「よければまた、ぜひ、会いたいです」
「本当ですか! ありがとう、そう言っていただけたらとても嬉しいです」
私たちはすぐに打ち解けた。
「オプストフさん、これからもまた話をさせてください」
「もちろん。こちらこそお願いします」
それからも何度か顔を合わせることとなる。
花を愛でるという共通の趣味があることが判明してからは、二人でいろんなところへ行って色々な花を見た。
暑い夏も二人で。
思い出を増やしていく。
「夏場って疲れません?」
「あっ……ネーベラさんもしかして疲れてる!?」
「あ、いえ。そういう意味ではなくて。普通の話です」
「そういうこと。なら分かるよ、疲れるよね」
そして夏の終わりが近づく頃に婚約した。
やがて秋が来る。
空気が徐々に冷えてくる。
冬が迫るにつれて花は減ってゆくけれど、オプストフとの関係は良いもののまま。
「お茶会できるなんて嬉しいよ」
「私もです」
「ん……あ、このお茶美味しいね!」
「気に入っていただけたなら嬉しいです、私も好きでよく飲んでいるんですよ」
最近はこうして二人でお茶を飲むのがブームだ。
「今日は実はクッキーもあります」
「クッキー?」
「ドゥングリのクッキーです」
「おお!」
「食べます? 二色あるんですよ」
「ほ・し・い」
そして寒い冬。
木々は枝だけになってしまった。
私たちはもうすぐ正式に結婚する。
それからしばらく期間があって、私とオプストフは正式に夫婦となった。
「これからもよろしく」
「よろしくお願いしますね」
「ネーベラさん、またドゥングリクッキーの売場教えてね」
「ええっ。今それを言いますか……」
こうして私たちは結ばれた。
これからもきっと穏やかに生きてゆけるだろう。
今は迷いなくそう信じている。
◆
そういえば最近になって、母親から、ダブに関する話を聞いた。
彼はあの後もあの女性と仲良くしていたそうだが、いざプロポーズすると厳しく拒否されてしまったそうだ。また、酷い言葉まで投げられてしまったそうで、それ以来女性不信になってしまったらしい。
で、彼は今も一人で生きているとのことだ。
また、友人と会うたびに「女性なんて全員クズだ」とか「女性なんかみんな嘘つきだ」とか殺伐とした空気で独り言を吐き続けたため、同性の友人さえいなくなってしまったのだとか。
もっとも、幸せになれた私には関係ないことだけれど。
◆終わり◆