夜は会えないと言っているだけです、どうしてそんなに怒るのですか。申し訳ありませんが私には理解できません。
「愛してるって言ってたのに! どうして夜の誘いは全部断るんだ!」
婚約者リールンガンに叫ばれる。
感情的になっている彼の目からは涙の粒がこぼれていた。
「夜は無理です」
「なぜ!?」
「夜間の外出は危険だからです」
「愛してるのなら何だって受け入れられるものだろう!?」
「愛していても無理なものは無理です」
私たちは分かり合えない。
根本的なところから違っているから。
「どうしてだよぉ!!」
「己の身を護ることもまた身だしなみのようなものです」
「酷いよぉ!! 悪魔!! 嘘つくなんて酷い!!」
「あの、話がよく……」
「僕のことが嫌いだから一緒に出掛けてくれないんだろ!?」
よく考えてみてほしい。
私は彼の誘いをすべて断っているわけではない。
断るのは夜間のお誘いだけだ。
彼は酷く感情的になってしまっているから今さら気づけないのだろうが……。
「もういい! もういいよっ! 婚約なんて破棄してやる!!」
彼は泣いていた。
鼻水を垂らして。
「昼間であれば会えますよ」
「知るかァッ!!」
「え……」
「もういい! 思い通りにならない女なんて大嫌いだッ! 消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ消えろ失せろッ!!」
こうして私は婚約を破棄された。
もう少し落ち着いてほしかった。どうか話を聞いてほしかった。泣くばかり叫ぶばかりではなく、きちんと話を聞いてもらえていたなら、少しは何かが変わっていたはずだ。もう少し歩み寄れたはずだ。
でも叶わなかった――。
共に行く未来は、もうない。
◆
あれから五年。
私は結婚して妻となり、子も誕生して母となった。
「明日仕事休みなんだ、何か手伝うよ」
「え。いいわよそんなの」
子の世話は大変だ。
色々苦労もある。
けれども夫が温かく接してくれるから日々頑張れている。
「でも、いつも子の世話とか色々頼んじゃってるだろ?」
「気にしないで、いいのよ。それに、貴方だって仕事を頑張ってくれているでしょう。休みなら休んでいていいのよ」
夫、彼は、いつも気を遣ってくれる。
それを申し訳なく思う部分も多少はあるのだけれど。
でも無視されるよりかは嬉しい。
家にいない時間があっても構わない。
時折でも寄り添ってもらえるだけで心が和らぐのだ。
そうそう、これは先日私の親から聞いた話なのだけれど。
リールンガンはあの後別の女性と婚約し、いつも二人でいて仲良しだったそうだが、結婚直前になって婚約は壊れてしまったそうだ。というのも、彼は裏で他の女性とも深い仲になっていたのだそう。それが婚約者の女性にばれたために婚約を破棄された、という展開だったようだ。また、怒っていた女性の親からは償いの金を請求されたそうで。それによってリールンガンのこれまでの貯金はすべて消滅することとなってしまったそうだ。
世の中色々あるなぁ、と思わせられる話だった。
◆終わり◆




