婚約破棄された私は、恋も愛も捨て、仕事に生きることにしました。けれども結婚の道が再び現れ……!?
私たちは幸せになれると思っていた。
共に歩めると信じていた。
婚約が決まった日、私も、彼も、そう思っていたと思う。
あの時見つめ合った表情。
そこに偽りはなくて。
二人は共に互いを想い視線を重ねていた。
だから変わらずにいられると思っていたのに――。
「俺は君との婚約を破棄する」
婚約者レミングはそう言ってきた。
しかもその隣には女性がいる。
栗色の髪のどこか小動物的な雰囲気がある女性だ。
睫毛が作り物のように長い。
確かに男性受けは悪くなさそうだ。
「婚約、破棄……?」
「ああ。俺はこの女性と生きることを決意したんだ」
「……そんな」
「悪いな、伝えるのが急で」
そこじゃない。
「でも、もう決めたことだから。じゃあこれで……さようなら」
「待って、お願い、話を――」
「もう聞くことはないよ。さよなら」
話をしたかった。
少しでもいい。
何がどうなってそんなことになったのかだけでも聞かせてほしくて。
でも叶わなかった。
私には、説明を求める権利なんてなかった……。
季節が流れ花が散るように。
二人の時も終わりゆく。
そして二度と戻らないのだ。
◆
あれから私は働き続けた。
もうやけくそだった。
知人が営む宿で朝から晩までとにかく大量に雑用をこなした。
嫌な記憶を掻き消すかのように。
そうしているうちに心の傷は薄れてきて。
「最近表情明るくなったね」
「はい! この仕事が楽しいので!」
いつしか人生に光を見ることができるようになっていった。
「雑用ばかりでごめんねぇ」
「いえいえ! これからもどんどんお願いします! できる限り働きます」
恋はしない。
愛も要らない。
でも日々の仕事は愛おしい。
いつまでもこんな風に走り回っていたい。
「お茶でも飲むかい?」
「あ、今から二回のベッドを整えてきます」
「ええ……ちっとは休んだらどうだい?」
「ベッドの作業が終わってからで良いでしょうか」
「ああいいよ。じゃ、用意しておくからね」
◆
だが私は結婚した。
相手は宿によく泊まりにきていた人。
これもある意味では職場での出会い、かもしれない。
つまり、働いていた宿の常連客の男性だ。
結婚なんて考えないようにしていたけれど、気づけば夫婦になっていた。
とはいえ退職はしなかった。
変わらず働き続けている。
今さら結婚したからといって仕事を辞めることはできないのだ、自分の気分的に。
――ちなみにレミングはというと、あの後あの時の女性と結婚したそうだが、妻に貯金を勝手に使われたらしい。
しかも、妻が使っていたのは、整形に、だったそうで。
レミングは妻の顔が作られたものであることにショックを受けて心を病み、療養中のある日、急に自ら命を絶ったそうだ。
◆終わり◆




