婚約破棄された私と婚約破棄した彼、その未来は真逆のものでした。
「あんたとはもうやっていけねぇ」
ある日、婚約者レージンから、そんなことを言われてしまった。
彼に良く思われていないのだということは何となく理解はできた。が、その短い言葉からすべてを察することはできなくて。どう返せば良いものか分からず、流れるように言葉を返すことはできなかった。短文からすべてを読み取り言葉を返す、そこまでの能力は私にはなかったのだ。
「だから婚約は破棄する」
戸惑いの中にあった私への気遣いなどはなく、彼ははっきりとそう続けた。
「婚約、破棄……ですか」
「ああ」
「そんな、どうして……」
「だから言っただろ? あんたとはもうやっていけねぇ、って」
そんなそぶり、少しもなかったのに。
私が気づかなかっただけ?
いや、違うはず。
私だって馬鹿ではないから、彼の様子に変化があれば気づいただろう。
彼の様子に変化があるのに異変に気づかないほどぼんやりしてはいない。
「ま、そういうことなんで、俺の前からは消えてくれよな」
レージンはそう言ってウインクする。
なぜここでウインク?
不自然ではないか?
もはや過ぎたことへの突っ込みなど無駄だけれど。
「……そうですか」
ただ、彼と一緒にいられなくなるというのは、少々寂しさを感じる。
共に生きてゆけると思っていた。
そういうものだと、自然と思い込んでいた。
でももう彼と一緒にいられない。
「じゃ、ばいばーい」
「……そうですね、はい、分かりました」
明るい表情で別れを告げられる、なんて……どこまでも悲しい。
彼は私と離れても平気だ。
そう言われているかのようで。
それでも過去には戻れない――過ぎた時をどうにかすることは人間には不可能なのだ。
◆
レージンとの婚約が破棄となってから数年。
私と彼は真逆のような道を行くこととなった。
私はあの後しばらく実家で暮らした後に親の知人の紹介で知り合った元王族の男性と交流を重ねて結婚に至り、今も彼と夫婦として成立している。
一度は大きなものを失ったような気持ちになっていたけれど。
でも彼が現れて。
彼と出会ってからは心の中の大きな穴のようなものは気にならなくなった。
今はとても満たされている。
大事にしてもらえて、温かな視線を向けてもらえて、自由もあって――こんな幸福な日々を手に入れられたなんてまるで夢のようだ。
一方レージンはというと、酒場で知り合った女性に大量に飲まされ酷く酔っ払ってしまったところを宿泊所に連れていかれたそうだ。で、レージンが気づいた時には既に事後となっていたそうで。後日、その女性から「身も心も傷つけられた」と言われ、償いのお金をもぎ取られたそうだ。
また、その件が女性にとって都合の良い形で広まったことで、レージンの社会的な評判も大幅に落ちてしまったそうだ。
◆終わり◆




