幼き日に女神のお告げを受けた私は婚約者に婚約破棄され続けなくてはならないこととなってしまっているのです。
幼き日、私は、女神から藍色の石がついたペンダントを授けられた。
女神は言った――いつか同じものを持つ男性に出会ったならその人と結婚しなさい、と。
だから私はいつか出会う人のために自力で身を守ってきた。
親に決められた人と婚約させられた時には敢えて嫌われそうなことをして向こうから婚約破棄を切り出してもらったくらいだ。
親が私の話を聞いてくれれば良かったのだが……それはなかなか難しいことで、ほぼ不可能そうだったので、いつの日だったかは忘れたが諦めた。
そして今日もまた、婚約者に捨てられる。
「お前の態度! 最悪だ! 婚約は破棄とする!」
結婚する気もないのに婚約することになってしまっていることに関しては申し訳ないと思う。でも私にはやり方がこれしかないのだ。親が無理矢理婚約させてくるから。敢えて嫌われるしか方法がない。
「ありがとうございます」
「はぁ? 何だそれ! この期に及んでまだそういう態度をとるのか!」
あれこれ言われることにはもう慣れた。
傷つけるようなことを言われても痛みは感じない。
ただ、今回も成功した、と思うだけ。
婚約破棄なんて。
それ以上ではないしそれ以下でもないのだ。
「はい、事情があるのです……貴方に非はありません、ただ、婚約は破棄していただける方がありがたいのです」
「は、はぁ……そうか。まぁいい。そういうことだからな、さよなら」
そしてまた一つ婚約が終わる。
◆
その日の晩、私は外の空気を吸いたくなって少しだけ外へ出た。
そんな時偶然すれ違おうとして一人の男性とぶつかってしまう。何か物が飛ぶような音がし、気づけば近くに一連の飾りのような物が落ちていた。
「すみません、これ――って、あ!」
拾って驚く。
それは私が持っているペンダントにそっくりな見た目だったのだ。
「こちらこそぶつかってすみません、お怪我は?」
「いえ、大丈夫です。それよりこれ……このペンダント、どこで……」
拾ったものを返しながら問うと。
「いつか同じものを持つ女性に出会ったならその人と結婚しなさい、そう言われたんですよ」
彼は苦笑しつつそう答えた。
すぐには切り出せず。
けれどもこの機会を逃すべきではないと思って。
「――あ、あの!!」
去りゆく彼の背に向けて叫ぶ。
「え」
「そのペンダント、私、持っています!!」
それが私たちの始まりとなった。
◆
あれから二十年、私は今も、あの日出会った彼と夫婦として生きている。
子二人ももうかなり大きくなっていて、最近はそこまで手もかからない。そのため夫婦で穏やかに過ごす時間もそこそこ確保できるようになった。ここ数年は共にお茶を飲む時間が宝物となっている。
そんな二人の胸には、今も、お揃いのペンダントが光る。
◆終わり◆




