婚約破棄直後、貴方と出会う。
雨が降る。
ざあざあという音が鼓膜を刺激する。
『君との婚約は破棄な』
つい先ほど婚約者からかけられた言葉。
雨音が煩くても決して消えない。
外界からの音は確かにあるが、それをもってしても、心を貫いたあの声を掻き消すことはできない。
ふと、崖を見下ろす。
見慣れた崖。ここは前からよく通っていたので今さら何も感じない、はずなのだが、今はいやに愛おしく感じている私がいる。ここから身を投げてしまえば楽になれるかな、なんて考えて、馬鹿ねと自分で自分を笑う。
「救いなどあるわけがない……」
死に縋りつこうだなんて馬鹿げている。
あの世に行けば幸せになれるわけでもないのに。
……でも。
瞼を閉じ、一度だけ深呼吸。
「生きていても、救いはない」
呟く。
そして吸い込まれるように崖に向かって……。
◆
「なんてことするんですか! 飛び降りるなんて!」
どういうわけか、私は助かった。
旅立とうと思った。
でも上手くいかず。
一人の青年に助けられてしまった。
「もう絶対にあんなことしないでください!」
「無理よ……私には希望はない」
「な、なら! あの、その、僕が貴女の希望になります!」
私は驚いて彼を見る。
彼は少し恥ずかしそうだった。
あぁ、こうして、静かに始まってゆくのか。
新しい物語。
◆終わり◆