婚約破棄、そして、私だけのハッピーエンドへ。
思えば、貴方と出会った日もこんな雨の日だった。
山道で転倒して困っていた私に手を差し伸べてくれたのが貴方で。どうしようもないという絶望から私を連れ出してくれた貴方に、私は心を奪われた。それからはずっと貴方が愛しくて仕方がなくて。今思うと、その時から既に私の貴方への想いは始まっていたのね。
そして、それから色々あって、ついに婚約するに至って。
とても嬉しかった。
夢をみているみたいで。
貴方と生きられる――こんな幸せはない、そう思ったわ。
だから思ったの。
貴方を護っていこうと。
貴方のために生きようと。
――でも貴方は私を捨てた。
「他に好きな人ができちゃったからさ、ごめんだけど、婚約は破棄するよ」
青ざめる私の前で貴方はそう言って笑う。
どこか無邪気に。
それは貴方の恋を描いているかのようで。
私の絶望はより大きくなった。
掴めたと思った。
幸福に手が届いたと。
けれどもそれは幻想でしかなかったのだと、貴方に終わりを告げられてようやく気がついた。
私が手に入れたと思っていたものは、私が抱き締めることができていると思ったものは、すべてが幻。幼い夢でしかなかったのだ。
そう気づいた時、私の中の鎖が壊れた。
「――そう、ならば、共に滅びへ至りましょう」
貴方を離しはしない。
心までは持てずとも。
地獄の底まで、永遠に、抱き締めたまま引きずり込んであげる。
私は死に、貴方もまた死んだ。
雨降りの夜に。
人々はそれを悲劇と呼ぶ。
けれども私にとっては違う。
これは、私にとっては――ハッピーエンドなの。
◆終わり◆




