二の腕が太いから無理と言われ婚約を破棄されました。が、ほどよくもっちりした二の腕が好きな青年に拾われました。
私にはアングロという名の婚約者がいました。
恋愛から始まった縁ではなかったものの、お互いそれなりに気に入っているようで、彼との関係は悪くはありませんでした。
しかしそれは、あることを機に一変してしまいました。
そう、彼が私が半袖のワンピースを着ているところを目撃してしまったのです。
なぜだか分からないのですが、その日から、彼は急にそっけなくなりました。声をかけてもこれまでのように返してくれませんし、向こうから話しかけてくれることもなくなってしまって、私と彼の関係性は急激に悪化しました。いえ、どちらかというと、彼の心だけが負に大きく変化したのです。
それから二週間ほどが経過した、ある日。
「話って何ですか? アングロさん」
「実は、婚約を破棄したいと思っている」
「えっ……」
彼の心が変わったことには気づいていたが、まさかここまでとは。
そんなに私が気に食わないのか?
そんなに私が嫌なのか?
「えっと……一応確認させてください。何か理由が?」
尋ねると、彼は少し言いづらそうな顔をしたが。
「……二の腕」
やがてそう呟くように答えた。
「え?」
「二の腕、見てしまったんだ」
半袖のワンピースを着ているところを見られたあの件のことだろうか。
やはりあれが原因?
だとしたらどういう理由だろうか……半袖なんてはしたない、とか?
「二の腕が太いから無理」
彼ははっきりとそう続けた。
「え。それが婚約破棄の理由なのですか?」
「そういうことだ」
「そんなに……嫌なのですか?」
確かに、私の二の腕は細くはない。
「あぁ、太い二の腕なんぞ見たくない」
二の腕が太い、ということで、私はアングロから関係を終わらせられてしまった。
実に残念だ。
こんな終わり方になってしまうなんて。
まったく想像していなかった展開だ。
とはいえ、私の人生が終わるわけではない。私はまたここから今日を明日を生きてゆくのだし、私の人生はまだまだ続いていく。だからここで立ち止まってはいられない。
◆
アングロに婚約を破棄された日から数週間が過ぎた頃、定期的に通っていた喫茶店にて、私は一人の青年と知り合う。
彼は喫茶店の店員。
名はカールガンという。
私はなんとなくアングロの件を話した。
すると彼は「僕はもっちりした二の腕大好きだよ!」と言ってくれて。
最初は励ましてくれているのだろうと思っていたのだが、彼からのアプローチが妙に強まり、それによって彼の発言は本当のものだったのだと気づいた。
「まったく、こんな素晴らしいもっちり二の腕を持っている女性を手放すなんて惜しい人だなぁ」
いつしかこれがカールガンのくちぐせになった。
◆
数年後。
私は今、カールガンと結婚し、彼と二人湖の近くの家で暮らしている。
ここは人の気配があまりなく一日中静か。過ごしやすさという面では最高と言っても過言ではない、そんな気がする。賑やかな空間が好きな人なら嫌かもしれないけれど、私にとってはここは楽園だ。
それに、何より嬉しいのは、彼が隣にいてくれること。
理解してくれる人。
受け入れてくれる人。
そういう人が近くにいてくれるのが非常に嬉しいのだ。
ちなみにアングロはというと、あの後好みの女性を家に監禁して痩せさせようと画策していたことが発覚し、監禁の罪で逮捕されたそうだ。
今は牢屋に入れられ、奴隷のようにしばかれたりこき使われたりしているのだとか。
もっとも、自業自得だから同情はしないけれど。
◆終わり◆