彼女のこと、あんなに自慢していたのに、少し都合が悪くなると刺し貫いてしまったのですね……呆れます。
「俺はさぁ、お前にはもう飽きたんだよぉ」
ある晴れた日。
婚約者リズムがそんなことを言ってきた。
なぜか鼻の下を伸ばしながら。
「だからさぁ、お前との関係は終わらせることにしたんだ」
「本気?」
「もっちろぉん。そうだよぉ」
「そう……」
「そ、れ、に、ね? もう好きな人、できちゃったんだぁ。とっても素敵な人でさぁ、出会ったその日から尽くしてくれたんだぁ。あっはははぁ、すぐ尽くしてくれるようになった彼女、誰が聞いても最高の女性だよねぇ? お前とは素晴らしさの階級が違うんだぁ」
リズムははすはす音を立てて息をしながら長文を発する。
何を聞かされているのだろう?
そんな気持ちだった。
惚れている女性の素晴らしさの紹介?
特に聞きたいとは思わない。
しかも、その女性というのは、恐らく彼にとって都合の良い存在というだけだろう。
「そうね、分かった。じゃ、婚約は破棄ということで」
「おぅ!」
「さようなら、リズム」
「おぅ! おぅ! おぅ!」
◆
それから数年、私は、この国の未来を担う王子と結婚することとなった。
自分でも驚きではあるのだが。
出会って惚れられたが最後、話はあっという間に進んでいってしまったのだ。
もちろんこちらに拒否権はなかった。
ただ、本音を言うと王子のことは嫌いではなかった。
彼とまだ知人として関わっていた時期も、そこそこ楽しいと感じる時は少なくなかった。
なので、段々私自身も「それも良いかもしれないな」と思うようになっていたことも事実であって。
それゆえ、不幸な話の進展ではなかった。
むしろ良い展開だったくらいだ。
一方リズムはというと。
後に、あの時話していた女性が他の男性とも深い関わりを持っていたことが発覚し、正気を失ってしまったようで。
女性を呼び出し、よく分からない言葉を叫びながら刃物でひと突き。
その身を赤く染め上げたようであった。
『とっても素敵な人でさぁ、出会ったその日から尽くしてくれたんだぁ。あっはははぁ、すぐ尽くしてくれるようになった彼女、誰が聞いても最高の女性だよねぇ? お前とは素晴らしさの階級が違うんだぁ』
あの時彼はそんな風に自慢していたけれど、きっと、今はもう夢から醒めたことだろう。
その女性は彼だけに忠実で尽くしてくれる人だったわけではない。
誰にでも同じようにしていてそれが普通だったのだ。
彼を愛していたから、とか、彼に尽くす強い想いを持っていたから、とか、そういうわけではない。
――それが現実だろう。
◆終わり◆




