爽やかな風が吹き抜けるような日、婚約破棄を告げられました。~理想高すぎも困ったものですよね~
その日は爽やかな風が吹き抜けるような日だった。
決して不快な日ではなかった。
むしろ心地よくて外を走り回りたいような日で。
「あんたとはもうやっていかない」
「そんな……どうして」
でも、そんな良い日が、暗闇を体現したような日になってしまった。
「婚約は破棄する」
彼の宣言によって。
「婚約破棄……どうして……」
「もう嫌なんだよ」
「嫌、って……どういうことなの」
「もっと素晴らしい人と生きる、そう決めたんだ。俺は妻に関してだけは一切妥協しない」
婚約者オリブとの出会いは今から数年前。
はじめはそんなつもりで関わっていたわけではなかったけれど、喋っていたら楽しくて、気づけば心が引き寄せられていたのだ。
今も彼のことは嫌いではない。
だからこそ、婚約破棄なんて言われたら。
どうしても胸が痛い。
彼が嫌いな婚約者だったら良かったのに。
「だからさ、あんたはもう消えてくれ」
「酷い……」
「何とでも言えばいい、でも俺の心は変わらない」
「そう……」
こうして私とオリブの関係は消滅してしまった。
私たちはもう隣を歩けない。
◆
オリブとの終焉、それは、私にとっては一つの悲劇だった。
けれどもそれから数ヶ月が経って一人の男性と出会い。
彼とは話していて気が楽で。
一緒にいると穏やかな心になれた。
そんな彼にだから、私はすべてを明かしてしまった。
話すつもりのないことも彼の前では話してしまう。
「へぇ~、そんなことがあったんですか」
「そうなんです」
「あのですね、実は、僕も結婚相手を探していて」
「そうなんですか?」
「はい、よければ……よければ、結婚を見据えて付き合ってみませんか?」
◆
オリブとの終わりから数年、私は結婚した。
もう無理だと思っていた。
立ち直れない気がしていた。
けれども――私にもたらされた縁は私に結婚という事実と新しい幸福を与えた。
今は穏やかに夫婦として暮らせている。
「あの時……結婚を見据えて付き合ってみませんか? って言ってくれて、ありがとう」
悲しみの果ての光。
私はそれを掴むことができた。
「ええっ。お礼を言われるようなことじゃないですよ」
「嬉しかった、今も……そう思っているの」
「こ、こちらこそ、ありがとう」
「ふふ。これからもよろしく、共に歩みましょう」
「もちろんですよ!」
ちなみにオリブはというと、知り合う女性に毎回のように高すぎる理想を押し付けるために悪い噂が広まってしまい女性から相手にされなくなったそうだ。
そのこともあって、今も一人。
結婚を望んでいるのに誰にも相手してもらえないという残念な状態らしい。
◆終わり◆




