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婚約破棄を告げられた悲しみ、その海の中で。
「君とはもう生きていけない。だって、君より好きな愛おしい人に出会ってしまったんだ」
彼はそう説明して、私との婚約を破棄することを告げた。
それから一時間ほどが経ち。
私は自宅へと帰っているところだ。
あぁどうしてだろう、晴れた空を見ることさえ今は辛く感じる。
そもそもの始まりは恋愛ではなかった。私と彼が出会ったのはお互いの親が知り合いだったから。で、流れのままに婚約するに至ったのだ。
でも、それでも、私は彼を好んでいた。
二人で喋る時、とても楽しかった。
彼も柔らかな面持ちでいてくれていたから、心は同じなのだと、見ている未来は同じものなのだと、迷いなくそう信じていた。
でも現実は違って。
彼には私でない人と結ばれる未来が見えていた。
私と彼の見ている未来は異なるものだった。
頬を一筋の涙が伝う。
「……終わってしまった、すべて」
私は彼とは行けない。
彼と共にこの道を先へ進むことはできない。
でも。
それでも。
彼と二人楽しく笑い合えた時間だけは確かにあったのだと、いつまでも覚えていたい。
◆終わり◆




