婚約破棄された私と、婚約者を捨ててまで他の女性にいった彼と、幸せを掴むのはどちらでしょうね?
「俺さ~、彼女と生きていくことにしたから~」
「あなたより魅力的でごめんなさいね! 形だけの婚約者さん!」
婚約者オガルは桃色の髪の女性を大事そうに腕で抱いている。
お前は去れ。
お前は消えろ。
そう言わんばかりの振る舞いだ。
「てことで、お前との婚約は破棄な!」
オガルはさらりと告げてきた。
それに素早く反応するのは桃色の髪の女性。
「いいのぉ? オガルぅ」
「いいんだよリリネ、俺はお前だけが好きなんだ」
リリネと呼ばれた桃色の髪の女性は胸もとをオガルの上半身に押し付ける。
オガルはそんな彼女の身体を抱き締める。
その頬は紅潮していた。
「形だけの婚約者さん、ごめんなさぁい。そういうことだからぁ、消えてちょうだいねぇ」
リリネはそう言ってこちらをちらりと見てくる。
その瞳には嫌みな笑みが滲んでいる。
私の勝ちよ、とでも言いたげな表情だ。
「じゃあな、ばいばい」
「本気ですか……」
「もちろん、本気だよ。嘘や冗談と思っているのか? 馬鹿だろ~」
こうして私は婚約者をリリネに奪われたのだった。
◆
あれから数年、私は一人の男性と結婚し妻となった一方で、オガルとリリネは残念なことになったようだ。
二人はあの後結婚したそうだが。
夫婦になって間もなく二人の周囲で不幸が連発するようになったそう。
最初の不幸は、リリネの両親の死。
健康そのものだったリリネの両親だが、父親はある朝急に倒れて死亡し、母親もその後を追うかのように翌日の夕暮れ時に謎の死を遂げたそうだ。
その事件によって心を病んだリリネは、情緒不安定になり、号泣していたかと思えば暴れるような状態になってしまって。
オガルも定期的に当たり散らされるようになったらしい。
オガルはそれに耐えきれなくなり、やがて妻リリネを殴ってしまう。
その問題によって二人は離婚することとなったそう。
けれどもそれでも不幸は終わらなかった。
リリネはその後も続々親戚を失い、一年もかからず身寄りがいない状態になってしまったそうだ。
さらに、オガルも、父親の事業が大失敗して家まで失ったり母親が働きに出ていた先で刺殺されたりと――とにかく色々大変なことが続いたようだ。
とはいえ私には関係のないこと。
大変そうだなぁ、と思ったとしても、だからどうということはない。
良かったではないか、好きな者同士で結婚できたのだから。
たとえ長く続かなかったとしても、それもまた彼らの人生だ。
ただ、私はそんな道を歩むのは嫌。
周りのものを失うばかりの道なんて。
だから今を大事にして生きる。
細やかな幸福、穏やかな日常、それを護って生きるのだ。
◆終わり◆




