かつて私の髪色を褒めてくれた婚約者でしたが、勝手な理由で婚約破棄してきました。
桜色の髪を持って生まれた私は、子ども時代から、皆と異なる髪色のせいで虐められた。
両親はいつも私を励まし支えてくれた。
美しい髪と言ってくれた。
それだけは幸運だったのかもしれない――親にまで嫌なことを言われていたとしたら、私はきっと今まで生きていなかっただろう。
そんな私にできた初めての婚約者ポール。
彼は私の髪色を褒めてくれた。
だから好きだったし一緒に生きていきたいと思っていた。
――でも彼との縁は長くは続かなくて。
「髪色は可愛いのに性格は可愛くないよな、正直がっかりだわ。ってことで、婚約は破棄することにしたから。じゃあな、永遠にばいばい」
ある日突然そんな風に終わりを告げられてしまって、それによって彼との関係は終わりを迎えてしまった。
両親は「気にすることない」と言ってくれたけれど、その優しさすらもその時の私にとっては辛いもので。どうしても気にしないことはできず。そのことばかり考えては憂鬱になってしまっていた。
ただ、そんなある日、たまたま家の前を散歩していたところ一人の男性に出会った。
「とても美しい髪ですね」
穏やかそうな人。
吹き抜ける風のような青銀の髪が幻想的だ。
「あ……ど、どうも。ありがとうございます」
「あの、よければ少し、お話とかしませんか?」
「私、可愛くないって言われます。髪色と違うって……」
すると彼は笑う。
「僕もです。偶然ですね、一緒ですよ。僕もこれまで言われてきました、髪色のわりに中身は平凡だーって」
奇跡のような出会い。
そこにある共通点。
それが私の心を彼へと導く。
「そうなんですか……同じですね」
「あはは、そうみたいですね」
こうして彼との関係は始まった。
◆
あれから三年、私は今。青銀の髪の持ち主である彼の妻となっている。
人々は私たちをこう呼ぶ。
――珍しい髪色の夫婦。
でも今は嫌ではない。
むしろ誇らしい。
色は違えど同じような容姿の個性を持った私たちを表現する言葉だから。
彼といると安心できる。
笑顔を保っていられる。
愛しい人――どうか、いつまでも共に。
ちなみにポールはというと、あの後私ではない女性と婚約していたそうだが、父親の高額な借金が発覚したことで婚約破棄を宣言されてしまったそうだ。で、そのことにショックを受けて寝込んでいたところ、父親に奴隷として売り飛ばされたことが判明。お迎えが来てしまい、ポールはそのまま連れ去られてしまったそうだ。
ポールは今頃この世のどこかで奴隷として生きているのだろう。
あるいはもう生きていないのか……明確ではないが。
いずれにせよ、彼がどうなっていたとしても私の幸福に変わりはない。
だから正直どうでもいいことだ。
今や他人となった彼がどうなったのかなんて私には関係ない。
私は愛する人と今日も穏やかな風を浴びる。
そして見つめ合って。
互いに笑みを浮かべるのだ。
◆終わり◆




