休日の昼下がり、夫が過去の婚約者について聞いてきました。なので元婚約者について話すことにしました。
「そういえばリリーってさ、前に一人婚約者いたんだよな?」
そんな話題を振ってきたのは夫。
休日の昼下がりのことだ。
「ええ、そうよ」
そう、私には、かつて今の夫とは違う男性がいた。
婚約していたのだ。
彼の名はルベルベーンという。
「あ、触れないほうがいい?」
「いえべつに、もう過ぎたことよ。貴方が不快でないなら触れても大丈夫」
「じゃあさ、少し聞いてもいいかな」
「どうぞ」
「婚約破棄されたんだよね?」
「そう、他の女に行っちゃったのよ」
私がまだ十代だった頃、ルベルベーンとの婚約が決まった。
最初はそこそこ良い関係だった。
彼と過ごしている時間は楽しかったし彼と行く未来も悪いものではないだろうと思っていた。
――けれども良い関係は長続きしなかった。
「彼、結構次々気が変わる人だったの。だから私のことも飽きてしまったみたいね。で、他の女性の中に凄く好きな人ができたらしくって。それで、彼は私に、婚約破棄を言いわたしたの」
夫にこういう話をするのはもしかしたら初めてかもしれない。
少しは話したことはあるが。
事の流れについて詳しく話したことはなかった気がする。
「気が変わっただけで婚約破棄か……何だよそれ」
「私とは無理って思ったんじゃない?」
「馬鹿だな、こんな素敵な人なのに」
「刺激が足りなかったのかもしれないわね、私、わりと大人しかったから。それに、基本夜には会わないし」
だが私はルベルベーンのことを恨んではいない。
だって彼が捨ててくれたからこそ今があるのだ。
今の夫に出会えて、こうして夫婦となれたのも、ルベルベーンが心変わりして私を切り落としたからこそ。
彼の行いが結果的に私を幸せな未来へと導いたのだ。
「そこが良いんだろ?」
「好みはそれぞれ、というやつじゃない?」
「まぁそうかもしれないけどさ……」
ちなみに、ルベルベーンはあの後、結婚しているにもかかわらず五股していたことが発覚し、その件で社会的な評判を地に堕とすこととなった――そんな風に聞いている。
彼の次々興味の対象が変わるところは変わっていなかったようだ。
しかし……結婚しているのに五股はさすがに酷いと思う。
もう少しどうにかならなかったのだろうか?
そう思ってしまう。
いや、どうにもならなかったからそういうことになってしまったのだろうが。
「おかげで貴方に会えたの、今は良かったと思っているわ」
◆終わり◆




