誰にも愛されない――そう思っていたのですが、それは間違いだったのかもしれません。
「きみのことを愛そうと、これまでずっと頑張ってきた」
婚約者であるルブールは真顔でそのような言葉を発する。
「だが、どうしても無理だった。きみを愛することはぼくにはできそうにない。たとえどれだけ努力しようとも、ぼくは、きみに魅力を感じない。そして、そのようなきみと共に生きていくことは、やはり、どうしても、したくない」
私が誰かに愛されるような人間でないことは分かっていた。
ただそれでも。
婚約者となら良い関係を築けるのではないかと思っていた。
でも甘かった。
彼もまた人間で。
だから私を愛さない。
「なので、婚約は破棄とする」
告げられた瞬間はどことなくぼんやりしていた。
まるで他人の話を聞いているような。
自分のことと分かっているのになぜかそうとは思えないような――そんな不思議な感覚だった。
「そうですか、分かりました」
「ごめんな」
「いえ……では私はこれで去りますね、さようなら」
私が彼に愛されることはない。
否、愛されるうんぬんどころか、受け入れられることすらない。
それが現実だった。
◆
ルブールに婚約破棄を告げられた日から数ヶ月が経ったある日、特にすることもないため家の近くの森を散歩していると、負傷している獣人族の男性を発見。
意識はあるが、四肢を痛めているようで。
話を聞いてみると、森を歩いていたところ狩りをする人に間違って矢で撃たれたということが分かった。
取り敢えず家に連れ帰って手当てをすることにした。
彼の回復は想像以上に早く。
数日で元気になった。
「ありがとう、助けてくれて」
「いえいえ」
「ではこれで」
「さようなら、お元気で」
私は彼を見送った。
――しかし、獣人族である彼との関係は終わらなかった。
数日後、彼は私の家へ現れた。
その手にはたくさんの花。
彼は自身が獣人族の族長であることを明かし、私を妻としたいのだと言ってくる。
「少し考えさせてください」
「もちろん」
たくさん悩んだ。
けれど、その日から数週間後、私は彼と結ばれる道を選ぶことを決めた。
どのみち誰にも愛されないのなら、相手が獣人族であったとしても誰かと共に生きてゆけるならその道を選びたい。
せっかくの機会を逃したくない、だから、私は彼と生きることを選んだ。
「私、貴方と共に生きます」
「ありがとう……!」
こうして私は獣人族の彼と結ばれた。
◆
あれから五年、私は既に二児の母となり、賑やかな日々の中で生きている。
子どもの世話はかなり大変だ。
でも彼は熱心に協力してくれる。
だから孤独ではない。
今は幸せだと思えている。
あ、そうそう、かつて私を捨てたルブールはというと、あの後酷い食あたりになったことで死亡してしまったそうだ。
彼に今はない。
彼は今を手にできなかった。
けれども、あの時捨てられた私には、今がある。
この世とは不思議なものだ。
◆終わり◆




