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怒らないでください、たとえ、私のことが嫌いでも。
「お前みたいなやつと婚約したのが間違いだった!」
怒らないで。
私のことが嫌いでも。
どうか怒らないで。
「最低な女! この世に生きていることさえ許せない! まずは婚約なんぞ破棄だ!」
婚約は破棄でもいい。
だから怒らないで。
消えるから、今すぐ、この世界から。
「出ていけ!」
貴方が怒っているところを見たくない――。
◆
雨が降る崖。
遥か下へ目をやる。
ここから足を離してしまえば、すべて終わりにできるだろうか。
さようなら世界――。
一歩、前へ出ようとした、瞬間。
「何してるの!? やめなさい!!」
振り返る。
一人の女性がこちらへ駆けてくる。
逃げないと。
そう思うけれど。
「掴んで!!」
伸ばされた手を、私は掴んでいた。
「一体何があったの、こんなところで死のうとするなんて」
「……怒らないで」
「取り敢えず、うちへ来なさい」
「え……」
「きっと何かあったのでしょう? 話聞くから、うちに来て」
それが、彼女との出会いだった。
◆終わり◆




