婚約破棄されましたが滅びの女神になりましたので、私に心ないことを言った彼を潰しに参ります!
私、普通に生きていくものだと、ずっとそう思っていました。
年頃になれば婚約結婚。
子どもを生んで育てて。
そしてやがて年をとり、いつかは死んでゆく。
そんな人生が待っているのだと、信じて疑いませんでした。
「お前! またそんな綺麗な服を来て! 駄目だろ!」
しかし現実はまったく異なるものでした。
私は婚約者アブスに奴隷のようにこき使われています。
夜中でも呼び出されれば彼のところへ行かなくてはなりませんし、少しでも気に食わないことをすると彼に怒鳴られ怒られてしまいます。
「ちょっといいか?」
こう聞かれた時には、答え方が決まっています。
「はい、喜んで。このようなつまらぬ女に時間を割いてくださりありがとうございます」
こう言わなくてはならない。
違う返事をすれば怒られてしまいます。
「お前との婚約だが、破棄することにした」
「え……」
「驚いているようだな。だが事実だ、お前との婚約なぞ破棄する」
彼は満足そうな顔で続けます。
「お前は無能だ。容姿も中、忠実さや有能さや器用さは下、論外だ。俺の妻には相応しくない。よって、お前との婚約は破棄する。泣いて謝るなら聞いてやってもいい、が、決定は変わらないと先に言っておこうか」
これまで付き合ってきて……最後はこれですか。
呆れてしまいます。
「なんだ? 謝ることもできないほどショックか?」
「いえ。……では、私はこれで。さようなら」
「はっ、強がりめ。まぁいい。謝らないのならもういい、さっさと去れよな」
その日、私と彼の縁は切れました。
もう彼に会うことはない。
そう思っていました。
……その時は。
◆
アブスに関係を終わらせられた私は実家へ帰ります。が、そこでは性格があまり良くない母と姉が待っていて。二人は婚約破棄された私を馬鹿にしてきました。また、姉は特に酷く、友人や知人に私が婚約破棄されたことを言いふらしました。それによって、私は『婚約破棄されてしまうような残念な娘』と認識されるようになり、近所の人たちからも馬鹿にされるようになってしまいました。さらに、今まで親しくしていた同年代の娘たちからも「婚約破棄がうつる」と言われ嫌われてしまいました。
希望を失った私は、死を選ぶことにしました。
その時の私はそれ以外の道を見つけられなかったのです。
◆
そして私は『滅びの女神』になりました。
生きている時に抱いた絶望が大きかったからでしょうか、私は、人を滅びへ誘う力を得ていたのです。
婚約破棄したアブス、馬鹿にしてきた母と姉に加えて近所の人たち、離れていって嫌なことだけは言ってきた性格が悪い同年代の娘たち。
私は誰も許しません。
私は一度捨てた世へ戻ります。
一度死んでおきながら、復讐のため現世へ戻る。
馬鹿と思われるでしょうか?
そうかもしれません。
もしかしたら……そうなのかもしれない、私は愚かなのかもしれません。
けれども、それなら愚かで構いません。
「失敗はしない、もう……」
私は『滅びの女神』です。
目的は果たします。
誰にも邪魔はさせません。
目的のためなら、憎い世界へ戻ることも……怖くはないのです。
◆
まずはアブスに破滅の力を使いました。
彼の顔をまた見ることになるなんて。
辛かった。
でも迷いはありませんでしたし、この先に待つものを想像すれば嫌なことばかりでもないのです。
彼は散歩中に山賊に捕まりました。
そして山奥へ。
山賊の基地にまで連れていかれ、そこで危険薬物をたくさん投与され、正気を失います。
薬物に脳をおかされたアブスは、四肢を縛られながらも、朝から晩まで「ぴ~ちゃら~ぴ~ちゃらんら~」というような歌を大声で歌っています。
それから数週間、危険薬物を摂取し過ぎたために急死しました。
彼の亡骸は山賊によって山に埋められました。
これは一つ目。
まだ、始まったばかり。
次のターゲットは母と姉。
私はまた破滅の力を行使します。
母はある朝急な温度変化によって倒れ、そのまま落命。
姉は一人寂しく泣いていました。
そんな姉にも不幸は降りかかります。
最初に姉の恋人が突然死しました。次に姉は家で連続十回転倒し身体を悪くしました。さらに風邪をこじらせてしまい苦しむこととなります。
結局姉は風邪をこじらせたことで亡くなりました。
そうして開かれた姉の葬式。
姉の友人らや近所の人たちが多く参加していました。
開催中、隕石が落下。
葬式の会場に落ちたことで、そこにいた者はほとんどが亡くなってしまいました。
これには驚きました。
まさか一掃されるなんて、と。
姉の友人らや近所の人たちにはまだ破滅の力を使っていません。
とはいえ、これで復讐は終わりました。
私は女神たちの居場所へ帰ります。
今度こそ本当に。
もうここへは来ないでしょう。
さようなら、世界。
◆終わり◆