婚約したい女性ができたからと婚約破棄されてしまいました。~せいぜい幸せになってください、ま、無理でしょうけど~
その日は突然やって来た。
「エリーネ・モーネ! お前との婚約は破棄とする!」
二つ年上の銀髪の婚約者ローゼ。
彼はいきなり関係を壊すようなことを言ってきた。
「婚約破棄、ですか」
最近ほぼ放置されているような状態だったので心当たりはあったけれど――まさか婚約破棄まで考えられていたとは、驚きだ。
しかも、今、ローゼの横には一人の女性がいる。
これまた衝撃。
女性を連れて話をする、なんて、そんなことはこれまでなかった。
「ああ。俺は彼女――リリエラと婚約することにしたんだ。だからお前は要らない。お前が消えてくれなくては困るのだ」
きっと、本気で終わらせたいのだろう。
でも、そういうことなら、それでもいい。
こちらとしては彼にへばりつく気はない。
終わりならそれでもいい。
終わるなら終わりで、次に進むだけのことだ。
「リリエラさん……といいますと、そちらの方ですか?」
「ああそうだ」
「そうですか……はい、分かりました」
「よし! 受け入れたな!?」
「はい」
「よっし! では決まりだ!」
こうして婚約は破棄となった。
まさかこんな形で終わってしまうなんて……という残念さは多少あったけれど、うじうじしていても特に意味はないので、前を向くことにした。
未来を見据えよう。
◆
ローゼと終わってしまった私だったが、そのことを聞いた伯父が一人の男性を紹介してくれた。
その男性は伯父の仕事関係の知り合いの息子。
離れた関係性のため最初は少し戸惑いもあったのだが、出会いはほしかったため、勇気を出して会ってみることにした。
そして私は結婚した。
伯父が紹介してくれたその男性と。
たぬきのような愛くるしい顔立ちの彼は、たまに「大丈夫?」と思うこともあるくらいのんびりしているが、そんなところがまた良いのである。というのも、一緒にいるとほっこりした気分になれるのだ。それに、何事も基本的に素直な解釈をするので、そういうところも私としては気に入っている。
「いやぁ~、あなたと結婚できるなんて嬉しいよ~ありがとう」
「いえいえ」
「エリーネさんは凄いなぁ、しっかりしてるよね~」
「そうでしょうか」
「うん! しっかりしてる! かっこいいなぁ~、ぼくもいつかそんな風になりたいなぁ~」
◆
結婚から六年。
今は第一子を育てているところだ。
毎日は忙しいけれど、ぐんぐん成長していく子が可愛くて、とても充実した日々だと思えている。
……それでもたまには愚痴っているけれど。
でも!
素晴らしい日々であることは確か!
こんな日々に巡り会えて良かった、心の底からそう思う。
そうそう、そういえば、これは私の親から聞いたのだけれど。
ローゼとリリエラはあの後互いの家の宗派のことで大揉めになったために結婚できなかったそうだ。二人の関係自体は悪くなかったようだが、家と家が喧嘩になってしまい、それによって結婚することはできないということになってしまったようだった。
婚約者を切り捨ててまで得ようとした縁――けれども彼らはそれを確かに手に入れることはできなかったのだ。
◆終わり◆




