薬草好き令嬢、婚約破棄される。~それでも世のため人のため生きてゆくのです~
「実は、胃もたれで……」
ここはリリカの薬屋さん。
とはいえ、この店を持っているのはリリカの父である。
「胃もたれですか、どういう時に発生します?」
「え? どういう、時、ですか?」
「たとえば――食べ過ぎた時とか憂鬱とセットになっているとか」
「そうですね、どちらかというと、食後が多いです」
けれども主に働いているのはリリカだ。
彼女の脳内にはありとあらゆる薬草の情報が入っている。彼女は客が困っていることを聞いて薬を合わせ、それを売る。それによって助かった人の数は既に百以上。
「そうですか、はい、では少しお待ちください」
「お願いします」
リリカは薬草が好き。
それゆえ異様なまでに詳しいのだ。
◆
そんなリリカにも婚約者がいるのだが――なんせその独特の専門分野ゆえに理解を得られていない。
この時代になってもまだ、薬というものを悪く捉えている人間もいて。彼女の婚約者であるデイビッドもまた、そのような思想を持っている男性なのだ。
「リリカ、薬屋の仕事はいい加減辞めろ」
デイビッドがそんな風に命令するのはこれが一回目ではない。彼はこれまでにもリリカに今の仕事を辞めるように言ってきたのだ。だが、リリカは恐ろしいほど頑固で。絶対に辞めるとは言わなかった。
「それはできません」
「なぜだ!? 魔女と思われるようなことをするな、恥ずかしいだろう」
「薬屋は魔女ではありません。薬は薬ですから。ちなみに、主に草ですが、それ以外の物もあります」
「そんなことは聞いていない!!」
この日、己の道を行き続けるリリカに耐えられなくなり、デイビッドは宣言する。
「どうしても絶対に意地でも辞めないと言うのなら……リリカ、お前との婚約は破棄とする!!」
口をぽっかり空けるリリカ。
「俺は本気だ!」
「婚約破棄、ですか」
「ああそうだぞ、婚約破棄だぞ。そういうことだ。分かるな? もう仕事は辞めてくれ。心配せずともいい、金には困らないだろうから」
「すみませんが、私は辞めません。婚約破棄なら婚約破棄でも構いませんので……では、これで、私は失礼します。さようなら、デイビッドさん」
リリカは動じなかった。
デイビッドと別れることを迷いなく選んだ。
「なっ……」
「では、これで。さようなら」
デイビッドは状況が呑み込めずぷるぷるしていた。
◆
それからのリリカは、より一層、仕事に打ち込んだ――と言っても、薬屋の仕事は彼女にとっては趣味のようなものなので、彼女にとっては何の苦痛もない。
それは彼女にとって一番楽しい時間なのだ。
それから数年、やがて国を代表する薬屋として有名になったリリカは、王立薬品研究学校に講師として招かれることもあるようになっていった。そうして、流れるままに生きていた彼女は、いつしか多くの人々から尊敬されるようになっていった。さらには国王からの表彰も受けて。資産も築いた。
皆に尊敬されるようになり地位も得たリリカとは対照的に、デイビッドは親の事業が失敗したことで借金まみれとなりそのストレスを発散するために街で何度も痴漢行為を働いた。
だがそれも長くは続かず。数回目には犯人であるとばれてしまって。拘束され、手を使えなくされる罰を与えられてしまった。その後一度は解放されたものの、今度は足を使って痴漢行為を働いたために再び拘束され、今度は処刑されることになってしまった。
◆終わり◆




