急に切り出された婚約破棄でしたが、その後私は結婚して幸せになれました。ちなみに彼は死へと向かうこととなったようです。
「なぁなぁちょっといいか?」
「何」
「お前との婚約さ、破棄してもいい?」
「え――」
その話は突然始まった。
「待って、何の話? 婚約破棄ってどういうこと?」
いきなり過ぎて脳が追いつかなくて。
思わず問いを連発してしまう。
「好きな人ができてしまったんだ」
「何よそれ、おかしいわ」
「好きな人ができることっておかしいのか!?」
「そうじゃない。婚約者がいるのに好きな人ができて、しかも、そっちに軽いノリで乗り換える――それがおかしいと言っているの」
色々言ってみるけれど、彼の心は変わらなかった。
「そうかもしれないなぁ、でも、もう心は決まってるから。じゃ、そういうことで! 婚約は破棄な! ばいばい」
急に終わってしまった――。
説得するなんて無理だった――。
無力さが心に重くのしかかる。
◆
数週間後、元婚約者の彼の訃報が届いた。
彼は愛している女性と旅行に出かけたそうなのだが、その先で野生の猛獣に遭遇した際にかっこつけようと挑発してしまい、その結果猛獣に襲われてしまい亡くなったそうだ。
なんて残念な最期……。
ま、今や無関係な人のことだし、どうでもいいことではあるのだけれど。
◆
それから二年、私は、この国を代表するお菓子販売店の若社長と結婚した。
彼は若くして権力を手にしている。
しかし性格は悪くない。
とても善良な人物で、妻である私には特に優しく接してくれる。
私は彼を愛している。
そして彼も――私を愛してくれている。
こんな幸せがあるだろうか?
少なくとも私は知らなかった。
この世にこんな幸福が存在しているだなんて。
◆終わり◆




