ママ大好き婚約者が婚約破棄を告げてきました! ~ある意味ラッキーだったのかもしれません~
私の婚約者リガレルンは母親が大好きだ。
それは出会ったばかりの頃に知った。
彼は私と会って話す時もいつも母親の話をしていた。
少しクセはあるけれど――でもそれは純粋だからだろうと思って共に行こうと思えていたのだ。
でも、ある日、それはすべて壊れてしまった。
「君との婚約は破棄とするよ」
リガレルンはさらりとそう告げてきた。
「え」
思わず情けない声が漏れてしまう。
あまりに唐突で。
「婚約破棄、って言っているんだよ」
彼はにこにこしながら言った。
「待って、そんな……どういうこと? いきなり過ぎない?」
「あのさ、実はさ、ママが言ったんだ。もっと良い女性を見つけたからその女性と婚約しなさい、って」
婚約破棄さえも母親の意思か。
やはり彼は母親が第一なのだろう。いや、彼の思考と母親への愛は知っていたし、分かってはいるつもりだったけれど。でもまさかここまでとは。母親が言ったなら婚約を破棄することさえどうとも思わないとは。
想像以上の母親愛だ。
「じゃ、そういうことだから。さようなら」
「……本気なのね」
「うん! だってママがそう言うんだもん! ママが言うことがすべて、ママが言うことだけがすべて、なんだよっ」
無邪気な笑みを浮かべながら発した言葉に――正直少し引いてしまった。
こうして私はリガレルンとは離れることになった。
◆
それから数ヶ月、私は、父親の知人である領主から持ち込まれた婚約話を受けることとなった。
婚約相手は領主の息子。
紹介されたその人と数回会ってみて、その後、私はその男性との婚約話を受けることにした。
で、無事結婚することができた。
長い付き合いを経ての結婚ではなかったけれど、私は彼を選んだことを良かったと思っているし、後悔する要素は一切ないと思っている――彼と共に生きる道は私にとって最善の道だったとはっきり言う覚悟がある。
あの時リガレルンに婚約破棄されたこと。
それはある意味ラッキーなことだったのかもしれない。
ちなみにリガレルンはというと、彼はあの後滅んだようだ。
母親に唆され、革命をうたう過激派組織の活動に兵のような存在として参加させられ、その活動の中で落命することとなってしまったらしい。
最期は「こんなつもりじゃなかったのに」と号泣していたそうだ。
母親のことだけを信じるのではなく少しでも思考する能力があればそのようなことにはならなかっただろうに――気の毒だが、おおよそ自業自得である。
愛するママのために死ねたのだ。
良かったではないか。
◆終わり◆




