父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。
父親が再婚し義母と義姉ができた日から、地獄のような日々は始まった。
父親がいる時には特に何もされなかったのだが、父親が場からいなくなると二人は豹変して。急に高圧的になり、私を侮辱するような言葉を吐き始めた。
そして、その日の晩から、私は西の物置に住まなくてはならないこととなってしまった。
「あなたはわたしにとって不愉快な存在なの。あの人の前妻が生んだ子なんて見たくもないわ。だからそこで暮らしなさい」
義母はそう言って私を物置に閉じ込めた。
父親には「心がしんどいということなので療養のためあちらに住むことにしたらしい」と嘘をついているようだ。
そして、婚約者がいたのだけれど、その婚約も強制的に破棄させられた。
婚約していた相手には義母が「心が辛いらしく結婚などとてもできる状態ではないので」と伝えたようだ。
婚約が破棄となったことを告げに来た義姉は。
「あたいより年下のくせにあんな素敵な婚約者がいるとかウザすぎ! 彼はあたいが貰うから。ふん、あんな素敵な人、あんたには惜しいわ」
などと言って不快な思いをさせて去っていった。
婚約者の彼が「一度本人と話をさせてほしい」と言ったそうだが、それらはすべて義母たちが拒否したとのことだ。
私の人生に光はないのか。
このまま暗闇で生きて死ぬのが定めなのか。
絶望していたのだけれど……。
やがて、状況が一変する時が来た。
国王が派遣した者が家へやって来たのである。
「ここにローズマリー様の娘さんがいるとの話で参ったのだが……いないのか?」
物置と屋敷は少々離れているけれど、遣いが来ていることにはすぐに気づいた。遣いの者の声がやたらと大きかったからだ。
「残念ですが、そのような娘はおりません」
物置の陰から屋敷の方を見る。
どうやら義母が対応しているようだ。
「では、もし見つかれば教えてくれたまえ。発見した者には報奨金を渡すこととなっているので」
「お、お待ちください!」
「……何か?」
「じ、実は、心当たりがあります」
「心当たり?」
「夫の前妻との間の子がいるのです、あちらの物置に」
怪訝な顔をする遣いの者。
「物置に? なぜそのようなところに」
「彼女は心を病んでいるのです、それで静かなあちらに住んで療養しているのです」
「なるほど。では、彼女に会わせてもらえるだろうか?」
「は、はい。すぐに。連れて参ります」
私は義母に呼ばれた。
「すぐに来なさい!」
「は、はい」
こうして私は遣いの前に出ることとなり。
「そっくりだ……! まさに、ローズマリー様そのもの……!」
「え」
「ぜひ共に来てほしいのです!」
遣いの者と共に城へ行くこととなった。
あの闇から抜け出せる。
それだけで嬉しくて。
だから知らない人についていくことだって怖くはなかった。
◆
城へ到着した私は、侍女らによって身を整えられ、それから国王と対面することとなった。
「お母様、ローズマリー様には、かつて大変世話になった。よければ……王子と婚約してここで暮らさないか? ……父親の再婚相手に虐められていたのだろう?」
なぜそれを、と思っていると。
「実は、君の婚約者だった男性から聞いたのだ。明らかに怪しい、と。それで調査を始め、それらしい情報を得られたため、動いたのだ。あのローズマリー様の娘を辛い目に遭わせたまま放っておくことはできないからな」
婚約者だった彼が……、駄目だ泣きそう。
「どうだろうか?」
「ぜひ……お受けしたいです」
王子の妻となるのは簡単なことではないだろう。
それもまた茨の道かもしれない。
けれどもあそこへ戻るくらいならその方がずっとまし。
「よろしくお願いします」
「おお! では決まりだ!」
「ありがとうございます」
こうして私は、王子と結婚するため彼と婚約し、城に住むことになった。
王子がどう思っているか、最初は少々気になっていたけれど。でも、会って話してみたところ彼は嫌がっていないようだったので、安心した。それに、王子はとても心が広く温かな人だったので、一緒にいてとてもほっとできた。この人となら一緒に生きていきたい、そう思えた。
◆
その後、義母と義姉は『義理とはいえ家族である者を虐め物置に監禁した』罪で拘束された。
義姉は当然婚約破棄され。
評判も地に堕ちて。
そうして更生施設へ送られた二人は、以降ずっと、牢屋同然の建物内にて厳しい教官にしごかれる日々を送ったそうだ。
時には血を吐くこともあったそうだ。
で、数か月後に、義母は風邪をこじらせて死亡。
義姉は教官の指導棒によるしごきで負傷したまま放置され生殖能力を失ったそうだ。
◆終わり◆




