ヤンデ令嬢は婚約破棄を告げられて本領発揮!?
ヤンデレ傾向があると噂の令嬢アニカには、整った容姿の婚約者がいる。
アニカ自身も整った容姿の持ち主であることから、二人は周囲から「お似合いカップルねぇ~」といつも言われていた。
二人はいつも仲良しだった。
気が合うようだった。
だが、何があったのか、婚約者が突然言い出す。
「アニカ、ごめん、婚約は破棄するよ」
二人でお茶をしている時に重要なことを急に切り出され、それまで笑顔だったアニカは真顔になる。
「え?」
アニカは悪魔のような顔をしていた。
顔面は青白く、目つきはどこを見ているか分からないようなものになり、口は無を絵に描いたかのようにぽうと空いている。
「ごめんなさい、今、何て言ったの?」
「だから……婚約は破棄するよ、って……ぐッ!?」
婚約者はアニカの片手に襟を掴まれる。
華奢な腕だが握力は力士級。
平凡な男性が抵抗したところで逃れることはできない。
しかも。
アニカのもう一方の手には包丁が握られていて、鈍く光るその先端は婚約者の喉元を狙っている。
「ごめんなさい、今、何て?」
「う……」
「聞こえなかったの。もう一度言ってくれる?」
婚約者は恐怖によって言葉を発することができなくなる。
唇だけが震えている。
「生涯アニカだけを愛するよ、って、言ったのよね?」
アニカの瞳は不気味に煌めく。
「そうよね?」
「婚約を破棄する、って言っていたの?」
婚約者は恐怖に襲われながらも何とか本当のことを言った。
「そうなんだ……ごめん、だけど……」
「誰かに脅されているのね? そうよね? だって貴方、生涯私を愛するって誓ったものね……?」
誓った。
それは事実だ。
婚約者はかつてアニカを生涯のパートナーにすると誓ったのだ。
「本当に、ごめん……。でも……もう、無理なんだよ……」
泣きながら言う婚約者。
アニカは一旦彼から離れた。
「そう。分かったわ。本当のことを言ってくれてありがとう」
「あ……あぁ、本当に……申し訳ないと思っているよ……」
刹那、アニカは手にしていた包丁を投げつけた。
それは婚約者に向かって勢いよく飛び、一撃で彼を仕留めた。
「今まで楽しかったわ……でも、私、嘘つきは一番嫌いなの。……さようなら」
愛おしい彼に婚約破棄され捨てられるくらいなら、今ここで彼を終わらせる。
それがアニカの考えだった。
アニカは彼を愛していた。
だからこそのこの対応である。
興味のない相手にならここまでしない。
今回に関しては過去の誓いを破られている。それだけでもアニカにとっては『死すべき』こと。なのにそれだけでなく『捨てられる』となれば、彼を生かしておく理由などない。それがアニカの思考。
「すっきり~」
◆終わり◆