ごめんね、とか言いつつ、翌日から他の女といちゃついてるんかーい!
「君との婚約、破棄とすることになったんだ」
物腰柔らかな婚約者ルブルが急にそんなことを告げてきた。
あまりに唐突で。
思わず低い変な声が出そうになったくらいであった。
「え……ちょ、それ……本気で……!?」
「うん、そうなんだ」
「婚約破棄……!?」
「そうそう。ごめんね、こんなことになってしまって」
いやいやいや!
おかしいだろう!
婚約破棄という現象が存在することは知っていたけれど、これはさすがに急過ぎるだろう。
「本当にごめんね。……じゃあこれで。さよなら」
こうして私はルブルに捨てられた。
謝りながら切り捨てる、って……。
◆
その翌日、私は、街を歩いていた。
少し買い物しに出掛けたのだ。
そして見てしまった――ルブルが見知らぬ女性と腕を絡め残念カップルのようにいちゃつきながら歩いているところを。
ごめんね、とか言いつつ、翌日から他の女といちゃついてるんかーい!
思わず叫びそうになった。
でも耐えた。
出掛けた言葉はぎりぎりのところで止めた。
ま、でも、婚約破棄後だから仕方ない。
婚約が消えた後なら彼が誰と一緒にいようが彼の自由。
私にはその行いを批判する権利はない。
◆
それから数週間が経った頃、私は、都で開催されたにんじんパーティーに参加した。
参加者は五人だけだった。
どうやらにんじんの人気が低かったようだ。
だが私はそこで出会った――この国の第二王子に。
「君! にんじんが好きなんだね!」
「ま、まぁ……それなり、には……」
「良かった! 僕、にんじんが平気な女性と結婚したいと思っていたんだ! よければ一緒に生きてくれないかな?」
「え、唐突過ぎません」
「あっ、そ、そうだよね! ごめん! じゃあ恋人から!?」
こうして始まった第二王子との関係。
それは結婚にまで至った。
出会いからしばらくして、私と彼はめでたく夫婦になった。
ちょうどその頃、私は親から、ルブルが亡くなったという話を聞いた。
彼は一緒に出掛けてきた女性に殺されたらしい。
何でも他の女性の話をしたからだとか。
他の女性の話をしただけで殺されるとは……少々理不尽な気もするが、ただ、内容によっては女性が不快感を覚えるのも理解できないこともない……ただ、それでも、人殺しはいけないことだけれど。
だが彼のことなどどうでもいい。
私にはもう関係ないことだ。
私は第二王子の妻として幸福を手に入れた。
◆終わり◆




