いきなり終わりました。婚約破棄と言われてしまいました。しかしそれから人生は大きく変わり始め……。
「ごめんね、きみとはもう生きてゆけないんだ――さようなら、婚約は破棄するよ」
その日は突然やって来た。
まるで災害であるかのように。
昔からよく言われていた。災害は忘れた頃に突然やって来るものだから油断してはならない、と。これもまたそれに似ているように思う。この件は地震や豪雨とは違う、だから災害とは言えないかもしれないけれど、でも個人の人生という面で考えればおおよそそのようなものだろう。そして、突然やって来たという点も、災害によく似ている。
「そんな、どうして……」
「母が婚約を破棄しろって言うんだ」
「なぜ」
「もっと素晴らしい女性を見つけたからそっちと結婚しろだってさ」
「そう……」
なぜ逆らわない?
なぜ嫌だと無理だと言わない?
本当に母が言ってきたのだろうか。
もはや彼を信じることはできない。
婚約者クレベル、彼のことは嫌いではないけれど、この状況ではどうしても彼が発する言葉を事実と純粋に受け取ることはできないのだ。
でもだからどうということはなく。
話は淡々と進んでいってしまう。
「ま、そういうことだから……ごめんね、じゃあこれで」
「……さようなら」
こうしてクレベルとの関係は終わった。
◆
だが、驚いたことに、その数日後国王から連絡があった。
私が聖女であると認定されたそうで。
城へ来てほしい、そして、王子との結婚を考えてほしい――そういう用件であった。
信じられない思いを抱えながら、私は城へ向かった。
そうして話はまた進み。
やがて私は王子の妻となった。
「嫌じゃないんだよな?」
「はい」
「本当に?」
「もちろんです、嫌ではありません」
私は聖女となりこの国を護ってゆくらしい。
……理解が追いつかない。
でも話は進んでゆく。
時は止まらず戻りもしない。
私は聖女。
そして、王子と共に、この国を護ってゆく。
◆
あれから十年、私は今も王子である夫と共に在る。
十年間、色々、辛いことがあった。事件も災害もあった。けれども乗り越えてこられたのは、偏に、夫がいてくれたから。夫と共に支え合い歩めたからこそ、山も谷も越えられたのだ。
「聖女様は偉大よね、国のために王子と結婚なさるなんて」
「己を捨てるのだもの……素晴らしい自己犠牲の心だわ」
「いつも笑顔でいつも皆のことを考えてくださる、まさに聖女様ね。この国が安泰なのもあのお方がいらっしゃるからよ、きっとそうだわ」
国民の多くが私を支持してくれている。
でも、私がここまで歩んでこられたのは私一人の力ではない。
夫がいて、周囲の人たちがいて、国民がいて。
だからこそ今日があり今日もこうして笑顔で生きていられているのだ。
ちなみにクレベルはというと、あの後、こっそり親しくなっていた恋人の存在がばれたことで母親と大喧嘩になったそうだ。で、喧嘩を止めようと間に入った恋人が、激昂していた母親に殺されてしまったらしく。それによってクレベルは正気を失い、以降、言葉一つすら発することができないような状態となってしまったそうだ。
◆終わり◆




