私は今、二十歳。ぱっとしない人生でした。……しかし! 都へ出たことで人生は大きく変わりました!
思えば、ぱっとしない人生だった。
私は今二十歳。
これまでの人生にふと気を向けた時、思い出せるのはあまり嬉しくない記憶がほとんどだ。
生まれた時から両親からは男が良かったと言われた。一応育ててはもらえたが、夜に両親が出掛けることも多く、そういう時は大抵、私は世話係と共に過ごしていた。数少ない良い思い出はその世話係とのものだが、彼女は私がまだ幼いうちに急死してしまって。以降、私を大切にしてくれた人はいなかった。成長する過程でも、親からはあれこれ言われ批判ばかりされ、友人だった人に裏切られたり急に虐められるようになったりということも少なくはなかった。
そんな私の婚約者はエイブリールという男性で。
彼もまた私を良く思っておらず。
ことあるごとに「なぜお前みたいな女を貰わなくてはならないのか……押し付けやがって……」などと言ってくるくらいだった。
「お前との婚約だが、破棄とする」
私も良く思っていなかった婚約者エイブリールからそう告げられた日、私はついに決意した。
もう誰かに頼っては生きない。
敷かれたレールには従わない。
私は私で生きていこう、自分の幸せのために。
エイブリールから婚約破棄を告げられたうえぼろくそに言われてしまったその日、私は誰にも話さずに都へ向かった。
知らない地へ行くのは怖い。
でも親のもとに帰ってもあれこれ言われるだろうし、それがかなり恐ろしい。
だから向かおう、王都へと。
◆
勝手に王都入りした私は、その時たまたま掃除係を探していたある屋敷の主人と出会い、気に入ってもらえたので雇ってもらえることになった。
「本当に良いのですか……?」
「もっちろん! いいんだよ。……ううん、むしろ、来てほしいんだよ」
私は何とか職を得た。
少しでも給金があれば生きていけるかもしれない、希望が見えてきた。
「泊まり込みでいいかな?」
「はい」
「大丈夫?」
「はい、むしろありがたいです」
「良かった。では決まりだね。それでは、これからよろしく」
◆
あれから六年、私は今、屋敷の主人の妻となっている。
あの時は知らなかったが、主人は独身だったのだ。
それを知った時はかなり驚いた。
あれほどお金があるなら奥さんもいるものだろうと思っていたのだ。
「君が妻になってくれて嬉しいよ」
彼はいつも私に温かな視線を向けてくれる。
そこが好きだ。
「いつもありがとうございます」
「そろそろ敬語やめないかい? 普通に話していいんだよ。今はもう雇い雇われじゃない」
「しかし……」
「どうしても無理?」
「そう、ですね……その、まだ、あまり慣れていなくて」
「なら! まずは練習から始めよう!」
これからも彼と共に生きてゆきたい。
穏やかな幸福の中で。
そうそう、そういえば、これらは最近知ったのだけれど。
私の両親はあの後離婚したそうだ。
母の同時五人不倫が発覚したことで揉めて離婚に至ったらしい。
そして、エイブリールはというと。
街で出会った女性に惚れられてしまい、追いかけ回され、ストーカーのような行為を繰り返された果てに捕まってしまい監禁されることとなってしまったそうだ。
表向きは同棲ということになっているようだが。
情報によれば、エイブリールは嫌がっているそうだが離してもらえず監視され続けているらしい。
ま、もう関係ないけれど。
ただ……閉じ込められて監視され続ける日々というのは辛そうだなとは思う。
◆終わり◆




