偽りの聖女は消えろ? そうですか、そのようなことを仰るのですね。では私は去りますので……ま、せいぜい後悔すれば良いですよ。
「ルーナ! お前、偽りの聖女だそうだな!」
婚約者のルルブ王子はいきなりそのようなことを言ってきた。
言われた時は戸惑いしかなく。
すぐに言い返すことができずにいたためにさらに話を進められてしまう。
「よって、婚約は破棄とする!!」
ええー……という感じだ。
「彼女! エフィこそが、真の聖女だったのだ!」
「え」
「見ろ! この高貴そうな姿を! どこからどう見ても彼女こそが聖女だろう!」
「えええ……」
「俺がお前と婚約したのはお前が聖女だという話だったからだ。だが、お前が偽りの聖女なのなら、俺がお前と生きなくてはならない理由などありはしないはずだ。よって!! 婚約は破棄すると決めたのだ!!」
エフィという女性が聖女?
本当か?
彼女こそが偽りの聖女なのではないのか?
だが……ルルブは信じ込んでしまっているようなので何を言っても無駄そうだ。
「偽りの聖女は消えろ!」
偽り、か。
そこまで言われるならもういい。
私は彼らの力にはならない。
「そうですか、そのようなことを仰るのですね」
「事実だろうが!」
「そう仰るなら……分かりました、そういうことで結構です。では私は去りますので。……さようなら」
ルルブはエフィが聖女だと信じている。
そう信じたいのならそれでいいではないか。
好きにすればいい。
もっとも――国に何か災難が降りかかる可能性はあるけれど。
「ああ! そうしてくれ! 消えてくれ!」
私は彼の前から消えた。
◆
数ヶ月後、王家は滅んだ。
王家に腹を立てていた一部の過激な国民たちが武装して立ち上がったことで王族は城から引きずり出され、散々むごいことをされた後に処刑された。
まさかここまで早く事が進むとは……。
さすがに想定外だ。
でも自業自得。
嘘を信じて勝手なことを言って私を捨てた者が悪いのだ。
◆
あれから数年、王族を失った国は一時的には混乱の波に見舞われたものの、次第に落ち着きを取り戻し平和になった。
そして、平和になった頃、私は一人の男性と結婚。
国を治めるという重要な地位を得た男性との結婚だ。彼の妻となったということは、この国の未来を担う存在になったということ。非常に緊張していたけれど、いつしか心は決まり、強く歩んでゆこうと思えるようになっていった。
私はここで生きる。
人々のために。
この国の未来のために。
◆終わり◆




