かつて私に婚約破棄を突きつけた彼とその母親は、自ら滅んだようです。
「お前は領地持ちの家へ入るのだ。平民とは違うのだ。だがお前はそのことを理解できていないようではないか」
金髪の婚約者オルフォガンはプライドが高い。
家にも自信を持っている。
それゆえ家柄が下の者に対しては非常に厳しい。
自信があるのは悪いこととは思わないが――彼のそういうところ、私は、正直あまり好きでない。
家柄を気にしすぎてはないか?
そう思ってしまうのだ。
それに「いきなり何を言い出すの?」という気もする。
「え……? あの、えっと、一体……?」
「お前、我が母の注意に従わなかったそうだな」
「すみません心当たりがありません」
「嘘をつくな!!」
「え、ちょ……あの……」
「嘘をつくんじゃない!」
えええ……。
「母から聞いたのだ、言うことを聞かないと。――ということで! お前との婚約は破棄とする!!」
ええええ……。
勝手に話を進めないでほしい。
理解が追いつかない。
「婚約破棄、ですか?」
「ああそうだ」
「そんな……急過ぎませんか」
「うるさい! 黙れよ!」
「そう……でしょうか」
「そうなんだよ! いちいちうるさい女だな! そういう口だけ動く脳足らず女は死ぬまで平民でいればよいのだ!」
こうして婚約は破棄となった。
私とオルフォガンが共に歩むかもしれなかった。だが、その道は既に消え去り。すべて滅び去ったも同然。道は崩れ、彼との世界は消えた。
でも――これで良かったのかもしれない、そう思う瞬間もある。
きっと彼とは上手くやっていけない。
ならそれでもいい。
この世は彼だけではないのだから、敢えて彼だけに執着することもないだろう。
◆
その後私は聖女となり王子と結婚した。
なぜそんなことになったかというと。
ある時山を散歩していた時に魔鳥の群れに襲われている王子を救ったのだが、それによって、この国の未来を護る聖女と認定されたのだ。
まさかの展開だった。
でも国王は私の存在を気に入り過ぎていて。
彼は私を手放そうとはしなかった。
そうして私は王子と結ばれることになったのである。
ただ、王子の意思を無視したわけではなくて、王子本人とも色々話し合った。
で、その結果、結婚することを決めたのだ。
一般人だった私に王子の妻となる未来があるなんて欠片ほども思っていなかったけれど、でも、運命の流れが私をここへ連れてきた。
ちなみにオルフォガンとその母親は破滅の道を辿ったようだ。
オルフォガンの母親は、嘘の経歴でいくつもの会長職についていたことがばれてしまい、それによって評判を地に堕としたうえ会長職をすべてくびになったそうだ。
そのため収入がなくなってしまって。
今は以前のような贅沢はできず、毎日不機嫌で、侍女や家族に当たり散らしているそうだ。
また、急に怒鳴ったり暴れたりするようなことも今や日常茶飯事らしい。
彼女はとにかく不機嫌で、周囲は酷い目に遭っているそうだ――もっとも、本人は自分ばかり酷い目に遭っていると言っているようだが。
そして、オルフォガン本人はというと。
婚約者と共に海に出掛けた際、警備までつけていたにもかかわらず、海中で足がつったために溺れてしまって亡くなったそうだ。
◆終わり◆




