婚約破棄されましたが、宮廷魔道士の妻になりました。今の暮らしにはとても満足しています。
「マリー! 貴様との婚約は破棄とする!」
想定していなかったことが起こる。
まさかの展開になる。
そういう日、そういう瞬間とは、いつも唐突にやってくるものだ。
婚約者アルンが婚約破棄を告げてきた。
「貴様は俺の妹リリに心ないことを言ったそうだな、豚鼻とか耳がごみとか! 容姿に対してそのようなことを言うとは! 許せん! だから婚約破棄することにした!」
心当たりがない。
何かの間違いではないか?
人違いとか。
あるいは夢か妄想ではないか?
少なくとも、そのようなことを言ったのは私ではない。
「あの……私、そのようなことは一度も申していませんよ」
「嘘をつくな」
婚約者の妹の容姿を悪く言う、なんて、そんなこと……するはずがない。
「いえ、嘘ではありません。私は本当のことしか言っていません。神にでも誓えます」
しかし私の言葉はアルンには届かない。
「うるさい! まだ逃げようとするか、いい加減諦めて認めろ!」
彼は妹の言葉だけを信じていて。
私の言葉など聞こうとさえしなかった。
こうして、私と彼の関係は終わった。
風の強い日だった。
◆
その後、私は、宮廷魔道士の男性に気に入られた。
出会いはある喫茶店。
彼が言うには、一人で席につき本を読んでいる私を見て興味が湧いたらしい。
で、何度か交流を重ねた後に、私は彼と結婚することになった。
宮廷魔道士、というものについては、正直あまり知らなかった。でも一応きちんとした仕事だったようなので安心した。
結婚後、私は、彼について宮廷に入った。
◆
早いもので、結婚から数年が経った。
私は今も幸福の中にいる。
宮廷魔道士の夫を持ち、宮廷に住み、わりと自由に暮らせる……文句なんてない。
ちなみに、最近は、ガーデニングに凝っている。
私たちのための部屋は一階なので小さいながら庭のような場所があるのだ。
私はここで色々な植物を育てている。
基本的には地道な作業が多いけれど、成長を見守るのは楽しく、世話をしていると植物の生命に触れられる気がして幸せを感じられる。
ああ、そうだ、そういえば。
アルンはあの後恋人を作ったそうだが、恋人に騙され、資産のほとんどを奪われることとなったそうだ。お金はなくなり、愛していた人にもさらりと去られ、それによってアルンの精神は崩壊。彼はもうずっと入院していて、親とも半年以上会っていないような状況だそうだ。
そして、彼の妹であるリリは、失ったお金を補うためにということで親に売り飛ばされてしまったらしい。
若い女性ということもあってか高く売れたそうで。
親は、最初だけ悲しんでいたが、お金を貰えた嬉しさでずっとにまにましていたそうだ。
何という残念な結末……。
でも可哀想とは思いきれない。
だって彼女はかつて私をはめたのだ。
やってきたことが返っただけだろう。
◆終わり◆




