婚約破棄された令嬢は精霊と共に世界を統一する!
それは、今から数ヶ月前の記憶。
私の心を傷つけた。
私の胸を痛くした。
当時婚約者だった男性グルテリスからの言葉――。
「もうお前とは! 絶対にィッ! 嫌なんだよッ!」
彼は容赦なく私の胸を切り裂いた。
そして傷を見ることさえせず。
私という存在を呆れるほど勝手に一方的に切り捨てたのだ。
どれだけ時が経とうとも、時折、ふとした瞬間に思い出すことがある。
彼の捨てられた悲しみ。
切り落とされた痛み。
心なき言葉をかけられた切なさ。
どれも、いつまでも、心の片隅に在り続けるというものなのだ。
負った傷は消えない。身体の傷なら癒えることもあろう。しかし心の傷はそうではないのだ。種によれば時と共に癒えてゆくものもあるだろうが、逆に、いつまでも永遠に残り続けるものもあり。目には見えないからきっと誰も気づかない、でも、その傷はいつまでも傷を抱くものを苦しめるというものなのだ。
◆
グルテリスに婚約破棄された直後、私は一人の精霊と出会った。
その人は己を『冬瓜の精霊』と話す。
彼と意気投合した私は、共に、この広い世界を治めることを誓い合った。
◆
そして現在。
私は全世界統合政府の長となり、世界中を手の内に入れている。
冬瓜の精霊は今も私の隣に。
彼は魔法でサポートしてくれるので、これまでもいろんな面でお世話になってきた。だがきっとこれからも世話になってしまうことだろう。なんせ、彼のその魔法は強い。世を治めるためには、彼の存在は必要となってくるだろう。
平和な世界を作る。
そのためには、力が要る。
矛盾しているようだけれど。
でも。
それは当たり前のことなのだ。
ちなみにグルテリスは既に死んでいる。
全世界統合政府が発足する数日前に、いくつかの場所で爆破テロを起こそうとしたために、拘束されて処刑されたのだ。
彼はもう消えた。
他者を傷つけようとして己が滅ぶこととなった。
◆終わり◆




