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婚約破棄を告げられ悲しみに溺れることになるかと思ったのですが……? ~そして夢は叶う~

 子どもの頃に抱く夢って特別なものだったり大人からすると不思議なものだったりするものよね。


 わたしもそうだった。


 だってわたしの昔の夢は『鳥になって一人で空を旅すること』だったんだもの。


 とてもまともとは思えないわ。

 ある程度年をとった今ならその夢が特殊なものであると分かる。


 だって人は鳥にはなれない。どう足掻こうとも、この世の理を変えることはできない。まぁ、鳥になっておきながら一人と数えている点もおかしいとは思うけれど。それ以前の問題よね。だって変じゃない、種を越えようとするなんて。そんなこと、できるわけがない。


 ……そう思っていた。



 ◆



「君みたいな女、もう大嫌いだよ! 婚約なんて破棄するよ! とっとと出ていってよ!」


 婚約者エルヴィスから婚約破棄を告げられたその瞬間、わたしは鳥になった。


 それも信じられないくらい大きな黄金の鳥。

 十数年生きていたけれど一度も見たことのない種類。


「え……鳥……?」


 エルヴィスは鳥になったわたしを見て驚きと恐れが混じったような表情を浮かべる。


 大型の鳥になったわたしは「グリュリュアアアァァァァァ」と声を放つ。

 声を出すと心地よい。

 婚約破棄されたことによるもやもやも少しは晴れそう。


「う、うわああああああ! 化け物! 来るなあああぁぁぁぁぁぁ!」


 大きな鳴き声を聞いて、エルヴィスは走って逃げていった。


 婚約破棄の先に待っていたのは悲しみに溺れることではなかった。

 それよりもずっと良いこと。

 昔からの夢だった『鳥になる』が叶うというものだった。


 正直驚いたわ、まさかわたし自身が本当に鳥になれるなんて、と。


 人間だったわたしが鳥になれる日が来るなんて思っていなかったし今はもう期待してもいなかったけれど、でも、いざそうなってみれば悪い気はしなくて。


「グリュリュアアアァァァァァ! キ……キ……キュリュグォアアアアァァァァ!!」


 では夢を叶えましょう。


 広い空へ飛び立つの。



 ◆



 あれから数年、わたしは今も、大きな鳥の姿のまま生きているわ。


 空はとても美しいの。

 愛しているわ。


 晴れの日はとても綺麗で、でも、晴れの日の空だけに価値があるわけではなくて。風が吹き荒れる日も、雨粒が暴れる日も、立体的な灰色の雲に塗り潰される日も。どれも違った魅力があって、どれも愛おしい空。


 だからわたしが愛する空は一つではないの。


 そういえば、これは、先日人の村に立ち寄った時に聞いたのだけれど。


 エルヴィスはあの日から毎日高熱にうなされるようになったんですって。途中からは酷い頭痛も加わって、動くことさえできなくなったそうね。で、そのうちに段々衰弱してしまって、今はもう生きてはいないそうよ。



◆終わり◆

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