ドラゴンの大親友がいた私は婚約者から急に婚約破棄されたのですが……。
私には友達がいた。
否、大親友だ。
どんな時も共にあり、泣いて笑って遊んで走って、いつまでも一緒にいようって誓ったりして。
――でも、種族が違った。
私は人間。
相手はドラゴン。
私たちはその生まれからして大きく異なっていた。
◆
「君みたいな女、やっぱりもう、これ以上一緒には生きていけねーよ。てことで、婚約は破棄するから!」
婚約者オーガストにそう宣言されたのは、嫌みかというほどによく晴れた快晴の爽やかな日であった。
「そんな……どうして。いきなり過ぎませんか」
「は? 勘違いすんなよ。お前には言葉を発する権利なんてねーよ」
「どうしてそのようなことを言うのですか!」
「黙れや!! ったく、うっぜーな。女は無能だろうが、要らんと言われたならとっとと消えろや」
その時のオーガストは、これまで見てきた彼の中でも、かけ離れているくらい心なかった。
確かに気遣いのできる男性ではなかったけれど、それでも、ここまで心なく酷いことはなかった――それだけに、こんな接し方をしてくるなんて驚きだった。
「……分かりました」
私はただその場から去るしかなかった。
帰り道、私は泣いた。
涙が溢れて。
止めようと思ってはいても、どうしても止まらなかったのだ。
そんな時――目の前に一体の大きなドラゴンが現れる。
「キミ! もしかして昔の!?」
「え――」
「ボク! ボクだよ! エッサ!」
「エッサ!? ……まさか」
エッサというのは昔とても仲良しだったドラゴンの名だ。
とはいえ親がつけた名ではない。
彼に出会った日、私が勝手につけた、そんな名前である。
「泣いているなんて珍しいね!? どうしたんだい? 大丈夫?」
「あ……」
「何かあったのかい?」
「……な、何もない、わ」
「ウソだね! ……話、よければ聞くよ?」
こんなかっこ悪い話を言いたくはない。
そう思いもしたのだけれど。
どうしてか言いたくて仕方がなくなってきてしまって――それで私はエッサにすべてを話した。
「そんなことが……」
「そうなの」
「えええ……」
「ごめんね、聞いてもらってしまって」
「ううん! いいんだ! 聞かせてもらえて良かったよ! ……でもユルセナイね」
◆
数日後、私は、オーガストが何者かに殺められたことを知った。
その痕跡からドラゴンに襲われたと思われるらしい。
ということは犯人はまさか――。
心当たりはあったけれど、敢えて言うことはしなかった。言う必要はないだろうと思ったからである。ここで心当たりを明かしてしまったら、もしかしたら彼が誰かに何かされるかもしれない。たとえ心当たりだったとしても、だ。それゆえ、私は、心当たりだとしても誰にも言わないことを選んだ。
そして、それから数日後、私は家を出た。
親に婚約破棄されたことを責められていてもやもやしていたところにエッサがやって来たので、彼に「どこか遠いところへ連れていって」と頼んでみたのだ。
そうして彼との旅が始まった。
◆
あれから数年、私は今もドラゴンであるエッサと共にある。
家を出てからはいろんなところへ行った。
見たことのないものを見たり、知らなかったものを口にしたり――そんな風に良い刺激を受けている。
「これからもいろんなところに行こうね!」
「ええもちろん!」
私はエッサと共に生きていく。
種族の違い?
それが何だというのか。
姿が異なる?
だとしても心を通い合わせることはできる。
◆終わり◆




