婚約者イコール奴隷と思っているようですが、それは間違いですよ。
「お前みたいなごみ女に人権はない! お前はどこまでもくず、どこまでもごみ、なんだ! だからはっきり言わせてもらう――お前との婚約、本日をもって破棄とする!!」
婚約者ガメル。
がっちりしていそうな名ではあるが実際にはほっそりした男性だ。
「どうして、そのようなことを言い出すのですか」
「俺の女性関係にあれこれ言うとは生意気な! ごみ女のくせに!」
「暴言を吐かないでください」
「ふざけるな、そのようなことを言って、許さんぞ! お前は俺と婚約したのだろう、ならば俺の奴隷なのだ! 奴隷が主に逆らうなど意見を言うなど! あり得ないことだ!」
婚約はしたけれど。
奴隷になるとは言っていない。
彼は大きな勘違いをしている。
「私は奴隷ではありません」
「そういうところがくそなんだ!」
「くそとか言わないでくださいよ」
「うるさい! 黙れ! 婚約破棄したのだから、黙って、受け入れろ! 大人しく去れ、早く! 今すぐ! 一秒以内に!!」
ガメルは歯茎を剥き出しにして怒鳴る。
呆れた――。
もう付き合えない。
やっていられない。
なので私は去ることにした。
だってそうだろう? いくら将来の夫婦なのだとしても、奴隷扱いなんてされたくないものだ。それに、彼の理論はよく分からない。婚約したならば奴隷? 呆れた主張だ。そんな話は聞いたことがないし、私もそんなつもりで婚約したわけではないのだ。いや、むしろ、そんな考えで婚約を決める者の方が稀だろう。
◆
ガメルとの婚約が消えてから、私は、毎日のように舞踏会に通った。
会の規模は様々。それでもほぼすべてに参加した。参加許可条件から外れてしまっていない限り――どんな小規模な会にでも参加していた。
その結果、おっとりしていて柔らかい雰囲気の男性に出会え、彼と上手くいって結婚するところにまで至ることができた。
夫となっても彼の柔らかさと優しさは変わらず。
猫かぶりではなかったようだ。
本当に彼はそういう人だったのだ、仮面ではなかった。
ただ、少々おっとりし過ぎているところもあって、たまに不安にはなるのだが……。
でも、そういうところも含めて、彼だ。
だからそれでいい。完璧なんて望まない。そもそも完璧なんて人には難しいのだから。それに、ちょっとした隙も時にはその人の魅力にもなるもの。一見残念そうなところも含めてその人なのだからそれでいい。
ちなみにガメルはというと、あの婚約破棄の数日後に父親の仕事が大失敗し、それによって家のお金もほぼなくなってしまったらしい。そして、息子であるガメルは、奴隷用人間として、親によって勝手に売り飛ばされたそうだ。
彼は今、きっと、この世のどこかで奴隷として生きているのだろう。
◆終わり◆




